研究課題/領域番号 |
17H06145
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
菅野 了次 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (90135426)
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研究分担者 |
田村 和久 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究副主幹 (10360405)
平山 雅章 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (30531165)
小林 玄器 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 准教授 (30609847)
鈴木 耕太 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (40708492)
米村 雅雄 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (60400602)
日沼 洋陽 千葉大学, 先進科学センター, 特任助教 (80648238)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 超イオン導電体 / 固体イオニクス / 中性子 / 放射光 / ナノ界面 |
研究実績の概要 |
新しい電気化学エネルギー変換・貯蔵デバイスの開発の鍵を握る超イオン伝導体において、リチウムおよびヒドリド導電体さらには他の一価イオン伝導性を示す新物質の探索を行った。 リチウム導電体に関する成果: 中性子回折実験が可能なLi10GeP2S12単結晶を用いて、単結晶中性子回折法により、構造を明らかにした。これまで見落とされていたリチウム位置を低温(10 K)データのMEM解析を行い発見した。発見されたLi位置は第一原理計算からも支持された。室温における構造解析から、リチウムの熱振動が十分に大きいことを確認し、一粒子ポテンシャル(OPP)法を用いてリチウムの拡散障壁を決定した。10Kの実験データを初期構造とする、空孔に着目したLi拡散モデルを用いてNEB法によって求めた拡散障壁は、実験値ベースのOPP法による結果と定性的に一致し、空間分布を持つLiの位置不規則性における、空孔の重要性を初めて明らかにした。 ヒドリド導電体に関する成果: K2NiF4型のヒドリドイオン導電体Ba2ScHO3を合成し、カチオン種の価数とアニオン配列との関連性を明らかにした。K2NiF4型構造のペロブスカイト層内をヒドリドイオンが優先的に占有するLi系の酸水素化物(Ln-Li-H-O)とは異なり、ヒドリドイオンが岩塩層内を選択的に占有した[Ba2HO]+層と[ScO2]-層が積層した構造をとる。この非遷移金属系酸水素化物におけるヒドリドイオンのサイト選択制は、ポーリングの静電原子価則から説明することができ、ヒドリドイオンが価数の低いカチオンの近傍を、O2-が価数の高いカチオンの近傍を優先的に占有することが明らかになった。この結果は、カチオン種の選択によって酸水素化物中のH/O配列が制御できることことを示しており、今後のヒドリドイオン導電性酸水素化物の物質探索において重要な設計指針となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リチウム系、ヒドリド系、さらにはナトリウム系において新規なイオン導電体を見出した。特に高いイオン導電率の物質が見つかったリチウム系、ナトリウム系の物質探索においては結晶構造の解析まで実施しており、さらなる導電率の向上を目指した理論計算との融合を開始している。ヒドリド系に関しては、ランタノイド種を変えた系統的な合成とイオン拡散機構の解析を行い、実験と理論計算において良い一致を示している。バルク物質の探索は計画以上である。また、ナノ界面形成における課題についてはやや遅れているが、解決すべき課題は洗い出すことが出来ている。この点は、次年度以降の1. 体制の整備(分担者加入)、2. 課題の整備(テーマ集中)によってナノ領域の研究を加速させるための用意もある。以上より、本年度の進捗は、当初計画に沿って順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、1. 体制の整備(分担者加入)、2. 課題の整備(テーマ集中)によって、やや遅れているナノ領域の研究に注力する。薄膜研究の熟練者の寄与を増加させることと、対象をリチウムイオン導電性物質に絞ることで、研究を加速させる。 すでにペロブスカイト電解質(Li-Sr-Ga-Ta-O系)とスピネル型負極(Li-Ti-O系)のヘテロエピタキシャル成長法は確立したため、この界面における構造解析とイオン導電特性評価を行う。特に高速充放電を可能としている界面の一つのモデル系として、イオン導電率の温度依存性や緩衝層導入による物性の変化を系統的に調べる。並行して、新しい電極と電解質の組み合わせからなる積層薄膜の合成に取り組む。特に正極材料と固体電解質の組み合わせに着目し、最終的に高速イオン伝導を可能にする界面を有する全固体薄膜電池実現につながる道筋を示す。そのために、系統的な合成・評価の確立と界面構造の理論計算の導入によって、より高速に実験を進める手段を見いだす。 バルク材料に関しては、これまでに分かっているイオン導電率向上の指針に沿った物質探索を行う。リチウム系では、構成元素の多元化によるエントロピー増大が一つの鍵であることが分かっている。ヒドリド系ではO/H配列と欠陥量の制御が重要であり、それが骨格を構成する元素種によって制御できることを見いだしている。系統的な探索による物質群の多様化と、物性評価、構造評価を新体制で効率良く実行し、目標として掲げたイオン伝導率の最高値、リチウム:10-1 Scm-1;ヒドリド:10-4 Scm-1(室温)の達成を目指す。
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