研究課題/領域番号 |
17H06149
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
染谷 隆夫 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90292755)
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研究分担者 |
関野 正樹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20401036)
横田 知之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30723481)
福田 憲二郎 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (40613766)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | バイオエレクトロニクス / 伸縮性センサ / 生体適合性 / 心筋細胞 / 細胞シート |
研究実績の概要 |
本研究では、自由に拍動する心筋細胞シートの活動電位を計測する手法の確立を目的とする。培養皿に固定されずにダイナミックに拍動する心筋細胞シートを評価できるため、実際に近い模擬環境で投薬による影響を定量的に評価することが可能である。 昨年度までは、ナノメッシュセンサの製造法を確立し、ダイナミックに拍動する心筋細胞シートの表面電位を計測することに成功した。さらに、電極と配線に銀ナノワイヤを導入することで、高い導電性と伸縮性を持つナノメッシュセンサを開発することに成功した。 本年度は、薄膜の金のプローブ電極をより高度化することに成功し、導電性有機材料のpoly(3,4-ethylenedioxythiophene) polystyrene sulfonate(PEDOT:PSS)を電気化学トランジスタとして用いることで、プローブ電極のアクティブ素子化を実現した。心筋シートの表面電位はわずか数ミリボルトであり、非常に微弱な信号である。そのため、計測した電位を増幅して読み出すことが必要である。環境ノイズや配線におけるノイズの混入を抑制するためには、信号源に近い場所で増幅することが好ましい。本研究では、十分な伸縮性と生体適合性、物質透過性を有するアクティブ素子を開発するために、電気化学トランジスタをナノファイバーテンプレートに作製する手法を確立した。開発したセンサは、1 V以下の駆動電圧で動作することが可能であり、高い相互コンダクタンス(0.9 mS)と早い応答速度(0.24 ms)を有する。実際に、開発したアクティブ素子を用いて生体の電位を信号源で直接増幅することに成功し、高いSNR比(25.9 dB)で生体の電位を計測できることを確かめた。さらに、開発したセンサは優れた機械特性を有し、0.56 mmの曲率半径で繰り返し曲げた際の特性変化はわずか3%以下であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、自由に拍動する心筋シートに適用可能な超柔軟センサの製造手法の確立を目指している。ポリウレタンナノファイバーをテンプレートとし、選択的に高分子膜を形成することで、やわらかさと機械的耐久性の両立に成功した。実際に開発したセンサを用いて自由に拍動する心筋シートの活動電位を高い精度で計測することに成功し、投薬前後における拍動数の変化を定量的に評価することに成功した。センサの機械特性が心筋細胞シートの伸縮能に与える力学的な負荷とその影響を系統的に調べ、センサと生体のバイオインターフェースにおける学理を深めることができた。さらに伸縮性、高い生体適合性、高い物質透過性を維持しつつ、信号源で増幅できる電気化学トランジスタを開発する研究を推進した。ナノメッシュ構造のアクティブ素子を実現することに成功しており、当初予定通り、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、創薬における心臓への副作用を定量的に評価することを目的として、自由に拍動する心筋細胞シートの活動電位を定量的に計測する手法の確立する研究を進めてきた。実際にナノメッシュセンサを用いることで、ダイナミックに拍動心筋細胞シートの表面電位の計測に成功している。さらに、ナノメッシュセンサのアクティブ化に成功し、当初目標としている物質透過性と高い生体適合性を兼ね備えつつ、伸縮自在で、高空間分解能・高時間分解能で計測できるナノメッシュセンサの開発を実現した。今後は、さらなる発展として、心筋細胞シートの細胞内電位を多点で計測可能な有機電気化学トランジスタマトリックスの開発を推進する。従来は、細胞内電位を計測する手法として、パッチクランプ法が用いられてきたが、侵襲性が大きいという課題とともに多点化が困難であり、心筋細胞シートの活動電位の分布を計測することには適していなかった。一方で、電気穿孔法のように細胞に電気パルスを印加し、細胞内電位を計測する手法も提案されているが、電界集中を起こすために大きな印加電圧が必要であるため、細胞への侵襲性やプローブ電極の構造への制限が課題とされていた。これまでに我々は、有機電気化学トランジスタの半導体層の容量を空間的に制御できる特徴を生かすことで、印加電圧を1V以下にしながら心筋細胞にダメージを与えず活動電位を計測できることを発見している。今後、電極部の構造及び電界印加条件を検討し、心筋細胞シートの細胞内電位の分布を計測できる有機化学トランジスタマトリックスの研究を推進する。
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