研究課題/領域番号 |
17H06154
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
牧野 彰宏 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 教授 (30315642)
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研究分担者 |
北上 修 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70250834)
小口 多美夫 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (90253054)
Sharma Parmanand 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 准教授 (80451623)
保田 英洋 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60210259)
佐藤 和久 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 准教授 (70314424)
張 岩 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (80645135)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 磁性 / ナノ結晶 / 磁石 / L10 / レア・アース / FeNi |
研究実績の概要 |
前3年間の90を超える組成の合金探査において、FeNi-L10規則相を含有するオクタへドライト型隕石にも含まれているPを含有させたFe-Ni-P系合金が、比較的に結晶化温度が低く、保持力Hc=1kOeを示す組成であることを見出した。 このFe-Ni-P系合金に良好なアモルファス相を形成する第4元素を添加した新たな合金系を検討し、S添加の合金系(Fe-Ni-P-S)で、結晶化温度の低下が認められ、FeNiの規則-不規則温度320℃に最も近い結晶化温度330℃を得た。しかし、この合金系は薄帯の形成能が低く、連続薄帯の作製が困難で磁気測定が難しかったことから、良好な硬磁気特性を示していたCoを添加した合金系の探査も実施した。この合金系の探査は、FeNiCoの割合を変えてその結晶化温度を確認することで行った。この合金系(Fe-Ni-Co-P)は、結晶化温度が365℃~411℃と、Sを添加した合金系の結晶化温度の330℃~355℃に比べて高い値を示したが、薄帯の形成能が優れていた。そして、この合金系で、これまでの実験の最高値となるHc=1.2kOe, 最大エネルギー積BHmax=1.1 MGOeと大きな性能向上が得られた。 一方、ナノビーム電子線回折パターンのシミュレーション結果から、L10超格子反射(110)を明瞭に観察する為には、L10規則相の化学的規則度S=0.8以上が必要であり、XRD測定においてS>0.8が得られているτ-MnAl合金系の新たな探査も実施した。そして、τ-MnAl合金系において、Hc=2.04kOe、BHmax=1.42MGOeとさらに高い特性値が得られた。このτ-MnAl合金系は、ナノビーム電子回折観察によるL10構造の直接観察が容易となることから、規則度向上、体積分率向上に繋がる規則相生成のメカニズム解明に進展をもたらすものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fe-Ni-Si-B-P-Cu-合金におけるL10-FeNi相の化学的規則度S=0.8、その体積分率8%、最大保持力Hcmax=0.7kOeをスタート組成とし、より系統的に種々の合金組成を検討した。 100を超える合金探査の結果、アモルファス相が形成された大方の合金においてその結晶化により軟磁性から硬磁性への変化が見られ、L10-FeNi相の形成が推察された。これは、アモルファス合金の結晶化によるL10-FeNi相の形成は、上記スタート合金組成に限った現象ではなく、非常に一般的に起こる現象であると判明した。定性的にL10相形成の容易さ、高い体積分率、高いHcを実現するには、個々の構成元素種よりアモルファス相の結晶化温度が低いことが重要なファクターであることを見出し、今後の合金組成探査の大きな指導原理を得た。そして、現在得られている合金系(Fe-Ni-Co-P)において、Hc=1.2kOe, BHmax=1.1 MGOeと、スタート組成と比較して大きな性能向上が得られた。 現状得られるサンプルは、コンポジットスプリング磁石に類似しており、その磁気的挙動が類似するとされているL10-FePtコンポジットスプリング磁石の実験結果及び論文から、硬磁性/軟磁性二重相系における軟磁性相の体積に保磁力が依存することから、硬磁性であるL10-FeNi相のみに起因する保磁力は、実測値よりさらに大きい値を示すと考察できる。そして、磁化容易軸のずれを平均10度と仮定し再計算した結果、Hcmaxは約6.6kOeと見積もられる。上記、合金組成探査により得られたサンプルのHcmax1.2kOeとの差は、合金組成探査の指導原理に従い最適組成を見出し、硬磁性であるL10-FeNi相の体積分率を更に向上させることで大幅な改善が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
前3年間の基礎研究を経て、2015年発表時のFe-Ni-Si-B-P-Cu合金における保持力(Hc=0.7kOe)、最大エネルギー積(BHmax=0.2MGOe)に対し、Fe-Ni-Co-P組成において、これまでの実験の最高値となる Hc=1.2kOe, BHmax=1.1 MGOeと大きな性能向上が図れた。しかしながら、L10規則相の飛躍的な体積分率向上に至っていないのが現状である。この現状を踏まえて、令和2年度は、体積分率の向上に注力して、アモルファス相の高い形成能と可能な限り低い結晶化温度が両立する最適な合金組成探査を更に推し進める。同時に、アモルファス相から結晶化する際の固有な高速拡散機構による優先的結晶化に重要な熱処理プロセスの開発も行う。そして、合金単体で体積分率の向上が図れた最適な合金組成と開発した熱処理プロセスについて、実験室の小型設備であるが、ボンド磁石においてすでに工業的に用いられている工程を行い、スケールアップした工業化への課題の抽出、その解決法の構築の検討を開始する。 (1)L10規則相の体積分率向上については、アモルファス相の形成能が高いCo元素や低い結晶化温度が得られるS元素の第4元素の添加で得られた結果をもとに、アモルファス相の高い形成能と可能な限り低い結晶化温度が両立する合金組成の探査を引き続き行う。同時に、熱処理温度/処理時間/昇温速度/冷却速度などの因子について検討を行い、最適な結晶化が行われる熱処理プロセスの開発を行う。 (2)人工的FeNi-L10規則相の基礎物性の調査については、L10規則相の体積分率が向上したサンプルについて、透過型電子顕微鏡(TEM)やナノビーム電子線回折(NBD)パターンによるL10規則相の直接観察を行い、高度に規則化したFeNi-L10規則相の磁気的測定を通じて硬質磁性発現機構の解明を行う。
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