研究課題/領域番号 |
17H06157
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大政 健史 大阪大学, 工学研究科, 教授 (00252586)
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研究分担者 |
西島 謙一 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10262891)
河原 正浩 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50345097)
鬼塚 正義 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 助教 (80571174)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | バイオ医薬品 / 工業用動物細胞 / 抗体 / 染色体 / 細胞培養プロセス |
研究実績の概要 |
チャイニーズハムスター卵巣 (CHO)細胞は、構築されてから50年以上、生体外にて増殖しており、科学的研究のみならず、産業においても多用されている工業用動物細胞である。特に、バイオ医薬品生産においては実際に上市されている抗体医薬の6割以上の品目の生産宿主として、生産基盤を支えている。現在、CHO細胞は10g/Lを超える生産も可能であり、培養コストもg数ドルが達成可能である。ところがCHO細胞自身の科学的解明については、未だ十分になされていない。これまで代表者は世界初の遺伝子増幅CHO細胞BACライブラリー構築により、染色体の再編成や不安定解析を通し、生産細胞の科学的解明を行っている。 本基盤研究Sでは、これまで行ってきた工業用動物細胞としてのCHO細胞の科学的解明を出発点として、細胞工学的手法ならびにバイオプロセス構築、統合バイオプロセスの基盤を構築することを目的としている。平成31年度(令和元年度)は、3年目に入り、継続して、本研究計画を3つのサブテーマに分けて実施した。具体的には、①「セルエンジニアリング開発」:特異染色体の科学的解明に基づいたゲノム育種プラットフォームを用いたセルエンジニアリングを構築・利用。②「バイオプロセス開発」:連続生産を見据えた工業用動物細胞によるバイオプロセス。③「統合化エンジニアリング」これらの組み合わせによる科学的基盤の確立である。採択時のコメントとして、連続培養プロセスにおける課題の絞込みに懸念が示されており、今年度は昨年度に引き続き、①については染色体再構築に関する研究を中心に進め、②については、連続操作プロセスにおける絞り込んだ課題として細胞安定性・染色体安定性を中心に課題設定し、③において、それらを組合せや統合化における科学的解明を主体として研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
設定したサブテーマに沿って、おおむね順調に進展している。サブテーマ①では、BACクローンの配列解析により、テロメア反復配列であるTTAGGGの繰り返し配列が染色体変異が起こっている染色体において存在し、主に転座の箇所に繰り返し配列を伴うことが明らかとなった。さらに初代細胞から樹立した経緯が明確な細胞を研究協力者から手に入れ、初代細胞との違いについて解析し、長期培養経過に伴う転座解析の基盤を構築した。さらに、ターゲット領域の探索として、レトロウイルスベクターを用いたスクリーニングの結果、CHO細胞の導入遺伝子高発現部位には少なくとも2種のタイプがあることが明らかとなった。サブテーマ②、③では、両方の融合を見据えて、細胞高密度に維持した状態(細胞周期停止)において、細胞から最大限に生産物を分泌させるために、1)分泌効率、2)抗体の律速過程、3)重鎖、軽鎖のアセンブリ、の3つの観点から解析を行い、律速過程やタンパク質の細胞内輸送の関連、さらには、染色体異数性と長期培養の関連について解析した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度においては、引き続き、サブテーマ①、およびサブテーマ②と並列に行いながら、サブテーマ③として、全員でサブテーマ①、②を組み合わせた工業用動物細胞を用いた統合バイオプロセスの基盤プラットフォームの構築を最終的な目的として実施する。 既に、サブテーマ②では、サブテーマ③にむけてCHO細胞を用いた連続プロセスとしての連続灌流培養系を対象とし、採択時のコメントに沿って、連続操作プロセスにおける課題として非常に重要な、長期における細胞安定性を中心に課題設定し、さらには、品質を向上させるセルエンジニアリング・培養法として、特に蛋白質分泌の細胞内プロセスの律速過程の解析を行い、品質を向上させるセルエンジニアリング手法を提案して一定の成果が出ている。これを活用する形で、②においては、引き続き、長期培養を見通した染色体変動についても解析を行い、このまま①、②を統合化する形で、サブテーマ③においても、長期培養における細胞変動解析を行う。
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