研究課題/領域番号 |
17H06158
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
竹山 春子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60262234)
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研究分担者 |
油谷 幸代 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 副ラボ長 (10361627)
安藤 正浩 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 次席研究員(研究院講師) (50620803)
細川 正人 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員(研究院講師) (60722981)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | ラマン分光 / データベース / 生理活性物質 / シングルセル解析 / 難培養微生物 / シングルセルゲノミクス |
研究実績の概要 |
1.微生物二次代謝産物のラマンスペクトラムデータベースの構築 本年度までに当初予定を前倒し、350種類の化合物の計測を行い、ウェブベースで試験運用DBへのデータ拡充を行った。また、生体試料を対象としたラマン分光測定に向け、市販の顕微ラマン分光計システムの改良・最適化を行った。解析アルゴリズムの開発では多変量スペクトル分解(MCR)を応用することにより、混合物由来の重畳したスペクトルから構成分子各々のスペクトルの分離・抽出・同定を可能にした。また、類似の骨格を持つ生理活性物質でも、官能基などの違いによるスペクトルの変化を捉え、混合物中での各成分の分子同定ができるシステムを構築した。 2.シングルセル解析のためのドロップレットマイクロフローシステム構築 真菌・放線菌を標的としたin situシングルセル測定を行い、生理活性物質の同定および菌体内での局在分布を可視化することに世界で初めて成功した。さらに、海外研究室との共同研究として、カイメン共在微生物を標的としたin situシングルセルラマン解析およびシングルセルゲノム解析を組み合わせた解析を行い、二次代謝産物を産生する未培養細菌の同定と全ゲノム情報の獲得を行った。 3.シングルセルゲノミクスによる新規生理活性物質遺伝子群の解析 微生物の高精度な性状解析手法として、ドロップレットを用いた新しいシングルセルゲノム解析技術を開発した。本手法により、多様かつ大規模な解析が可能になり、他大学や他の研究機関・企業を含め、当初の予定を超えた幅広い環境微生物への応用が展開された。具体的な応用例として、ヒト・マウス由来腸内細菌、サンゴ・昆虫共生細菌、土壌(土漠・海泥・根圏)細菌、海洋性細菌、感染性細菌、空中浮遊細菌などが挙げられる。また、得られた配列情報を効率的に解析する手法の開発にも並行して取り組んでおり、論文の発表に至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、2つの大きな技術の高度化と社会実装を目的としている。 ラマン分光解析では、当初予定を前倒して350種類の化合物を計測し、DBの作成を行った。また、データ検索のインターフェイスも構築できており、より多くのデータ蓄積とともに検索プロトコルの検証を順調に進めている。また本件では、生体分子ラマンシグナルを効率的に分離解析する手法を確立し、多様な微生物でのターゲット化合物の局在性や放出に新たな知見を得ることができた。機器開発に関しては、分析大手企業との共同研究で新規の機器開発がスタートし、令和2年度にはプロトタイプ機を作製するに至った。また、腸内細菌、環境微生物、植物、食肉等を対象として医学、環境科学、農学、発酵生産、食品安全(動物検疫)など幅広い研究分野、対象での本技術を用いた産官学連携も進展している。 シングルセルゲノム解析では、マイクロ流体デバイスを基礎としたプラットフォーム開発を滞りなく実施することができ、スピード感を持って技術開発を進めることができた。この結果、従来困難とされてきた微生物シングルセルゲノム解析に必要な技術要素の段階的な開発が進み、当初の想定を超える成果が得られ、その要素技術を論文報告に結びつけることができた。研究成果を総説・解説・招待講演等で紹介する機会が増え、国内だけでなく海外からも共同研究依頼が複数件届くなど、微生物シングルセルゲノム解析のパイオニアとして着実に認知を深められたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.微生物二次代謝産物のラマンスペクトラムデータベースの構築 当初の研究計画に従い、令和2年度も二次代謝産物のラマンスペクトラムデータベースの拡充を進める。また、1μmオーダーの小さな菌体のラマン計測に向け、光学配置や光学素子を含め装置全体の設計を見直すことでより高感度なバイオ用途ラマン分光計の構築を進めており、令和2年度初頭に完成予定である。新しい機器のもと、微生物スペクトルデータの拡充も同時に進める。 2.シングルセル解析のためのドロップレットマイクロフローシステム構築 これまでは、ラマン分光解析技術とドロップレットを用いたシングルセルゲノム解析技術の各システムについて別個に改良を進めていたが、今年度は2つの技術を統合するシステムの開発を開始する。2つの技術を統合したマイクロデバイスの開発を企業と連携して行い、より多様な環境サンプルに適用できるシステムの構築を目指す。また、同時にドロップレット培養、培養株の有用物質同定、有用株のスクリーニングシステム構築も同時に進める。 3.シングルセルゲノミクスによる新規生理活性物質遺伝子群の解析 現在進行中の共同研究を含め様々な環境サンプルに対してドロップレットを用いたシングルセルゲノム解析手法を応用し、ドラフトゲノム情報の拡充を行うとともに、得られたビッグデータから二次代謝産物産生遺伝子を探索し、ラマンスペクトル情報と共にデータベース化を行う。また、ドロップレット内での環境微生物の培養にも取り組み、土壌微生物などを対象として、好気・嫌気両方の条件で培養方法の検討を実施する。また、現在ゲノム増幅産物からの配列解析手法の改良に取り組んでおり、より高精度なゲノム情報が取得可能になる見込みである。これらの技術を応用し、シングルセル解析でしか達成することのできないアプリケーションへと展開していく。
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備考 |
他4件
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