研究課題/領域番号 |
17H06159
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 浩之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70216753)
|
研究分担者 |
百瀬 敏光 国際医療福祉大学, 医学部, 教授 (20219992)
羽場 宏光 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, チームリーダー (60360624)
鎌田 圭 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 准教授 (60639649)
島添 健次 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (70589340)
|
研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
|
キーワード | 高速シンチレータ / CMOS-SOI / コンプトンカメラ / 同時計数 |
研究実績の概要 |
CeBr3シンチレータの大型化とアレイ結晶の製作を進め、ゾーンブリッジマン法を用いて2インチ径の結晶を作製し、育成したCeBr3結晶の特性評価を行ったところ3.8% @662keVのエネルギー分解能、72000photon/MeV、20ns以下の蛍光寿命を確認した。湿度2%以下のドライルーム中での結晶加工、アセンブリ技術の開発を行い、MPPCアレー上に直接CeBr3アレーを形成する技術を確立した反跳電子飛跡追跡型の大型素子として15mm×24.6mmサイズのCMOS-SOIチップの製作を行った。フレームモードでの241Amのガンマ線スペクトルからコンプトンカメラとして十分なエネルギー分解能を有していることを確認し、β線の電子飛跡が可視化できることを確認した。シミュレーションを用いた結果から深層学習を用いることで30μmピクセルにおいても高い平面および深さ方向の反跳電子飛跡の再現が可能であることがわかった。CeBr3読出用の高速ASICを開発し、時間分解能40ピコ秒および良好なエネルギー分解能と線形性を有する性能を持つことを確認した。1チップに64チャネルを搭載しておりCMOS-SOIチップと組み合わせることで良好な角度分解モジュールを構成するものである。 2光子ガンマ線イメージング用の核種の探索を行い、K-43, Cr-48, Ca-47などの有望な対象核種を見出したが、特にK-43は617keV/372keV または397keV/593keVの光子を数10ps内に続けて放出するため、PETとほぼ同等の時間分解能で計測可能な核種であり、K-43については、生成収率の決定、化学精製技術まで確立した。また、二光子放出核種を対象として、新たに焦点からのガンマ線を高感度かつ低バックグラウンドに計測することが可能になるRI顕微鏡の新方式を考案し、特許申請中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はIn-111が2本のガンマ線を連続して放出することにヒントを得て、考案したものである。当初の計画に従って、角度情報を精度高く得るために必要な高エネルギー分解能と同時計数の有用性を生かすための高速応答を示すCeBr3シンチレータの開発を進め、2インチサイズまでの結晶大型化に成功し、エネルギー分解能では3.8%と3%台の高いエネルギー分解能と発光量72000光子/MeVと高性能のシンチレータを実現した。シンチレータの2mm角ピクセルアレーのパッケージ化に成功し、同サイズのSiPMアレイと組み合わせた高エネルギー分解能・高速シンチレーション検出器モジュールを実現した。SOIピクセル検出器の製作を進め、電子飛跡計測に成功するとともに、15mm x 24.6mm、ピクセルサイズ30μmの大型チップの製作を行い、その動作と高いエネルギー分解能を有することを確認した。また、新たに見出した核種であるK-43を理研の加速器で生成して計測を行ったところ、DPECTと単一光子計測を比較した結果、位置分解能、バックグラウンドともに改善された。Cr-48、Ca-47、Lu-177などの核種が2本のガンマ線を放出することを見出し、実際にK-43、Cr-48、については核種の合成に成功した。また、2光子放出核種を用いたRI顕微鏡の新しい概念については、256個の穴の開いたコリメータとGAGGシンチレータを接続したピクセル型検出器を用いた原理検証を実施し、コリメータの位置を走査して、In-111の放射能分布を計測したところ、単一光子のみを用いた走査では、空間分解能が制約を受けるのに対して、2光子同時計数を行った場合には、コリメータの焦点のみに計数対象を絞りこむことができるため、単にコリメータと一体化した検出器を走査するだけで高い空間分解能が得られた。このように当初の予想以上の成果を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの開発でシンチレータとしては十分高い性能のCeBr3シンチレータが実現できたので、これのアレイ化・検出器モジュールの製作を進めていき、マウスを用いた画像を取得し、従来のSPECTと比較して高い性能が得られることを実証する。DPECTにおいては、PETとは特性が異なり、最初に放出されたガンマ線に対して対向する方向以外にもガンマ線が放出されるため、検出器モジュール数とそれによる立体角をカバーする割合が非常に大きく検出効率に効いてくる。このため、多数の検出器モジュールを用いて測定対象を取り囲むように多数配置した半球型のDPECTシステムを構築し、In-111を用いた測定に加えて、これまでに見出したK-43, Cr-48, Lu-177などの核種を用いて本手法の有効性を示すことを行っていく予定である。 また、多光子ガンマ線時間・空間相関型イメージング法の開発においては、イメージングと核医学内用療法を融合させたTheranosticsが重要な医学応用の一つである。現在、核医学治療としていくつかのベータ線、アルファ線放出核種が臨床利用されているが、本研究では、In-111などの診断用核種に加えて, Theranosticsへの展開としてLu-177などのアイソトープ治療用2光子核種が有望である。治療核種は大量に用いるため、バックグラウンドの影響を抑え込む本手法の有効性が発揮される分野であると考えられ、これについては、2019年度に新たに考案したRI顕微鏡の方式が有効であると考えられ、適用実験を実施することを検討する。これとともに、In-111標識ペプチドを用いて2光子放出核種検出1分子イメージングを実現し、日本発の革新的ガンマ線診断技術の確立と、多光子多核種同時計測への展開を図る。
|