研究課題/領域番号 |
17H06161
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮下 保司 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (40114673)
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研究分担者 |
内山 安男 順天堂大学, 医学部, 特任教授 (10049091)
大木 研一 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50332622)
小西 清貴 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90323609)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 認知神経科学 / 磁気共鳴機能画像法 / 磁気刺激法 / 記憶 / 霊長類 |
研究実績の概要 |
サルに遂行可能なメタ記憶課題(確信度判定課題)すなわち自分の記憶がどの程度正しいか、に関する自己の確信の程度を問うメタ認知課題を開発した。研究計画調書に記述した通り、まずfMRI法によりこの課題遂行中に活性化する大脳皮質領域を同定した。次にGABAアゴニストであるmuscimolを用いた薬理学的な大脳局所不活性化法を用いて、当該脳領域の活動を抑制した時に行動レベルで起こる確信度判断および記憶想起への影響を観察した。その結果、記憶内容そのものの処理と独立したメタ記憶中枢が大脳前頭葉(9野および6野)に存在することを発見した。次に、ソクラテスの唱えた「無知の知」に代表されるような、自分自身が経験したことのない出来事に対してメタ認知評価を行う心のはたらき(メタ記憶機能の中でも特に高度な心的機能と考えられる)について、上記メタ記憶課題を用いて、サルが未経験の出来事に対して確信度判断を行いうることをまず実証した。更に確信度判断時に大脳皮質前頭葉のうちでも最前方に位置する前頭極(10野)が活性化することを発見した。更に、当該脳領域へのGABAアゴニストmuscimolの局所注入によって神経活動を抑制した時に当該メタ記憶判断のみが特異的に抑制されることを見出した。こうして、大脳前頭極(10野)が、未経験の出来事への確信度判断の生成に因果的に寄与していることを発見した。これらの研究によて、進化的に最も新しい大脳領域である前頭極に「無知の知」に特化した神経基盤が存在することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下位目標(1)メタ記憶課題の確立と大域神経回路の同定(磁気共鳴機能画像法と薬理学的行動操作) および 下位目標(2)サル大脳皮質に対する回路特異的光遺伝学的介入による記憶行動制御法の開発 については、当初の研究目的を完全に達成する見込みが極めて高い。実際、それらの成果は既にScience, Neuron, Nature Comm., Nature Rev. Neurosci.等を含むトップ・ジャーナルに論文発表されており、その学術的価値は世界的によく認識されている。更に、本研究の一部が Nature Rev. Neurosci.における総説として発表されたことは、神経科学においてのみならず関連他分野にも広くインパクトを有することをNature編集部が認識していることを示している。 下位目標(3) に関しては、研究計画の変更があった。上述のように、マカクサルのメタ記憶実験の過程で「私は知らない」ことの確信を形成する脳部位が大脳前頭葉10野に局在していることを発見した。大脳前頭葉10野は、系統発生的にヒトで最も発達した大脳部位であるのでヒトを対象とした脳活動計測実験等を追加で行い、また、10野の機能をヒトとサルで比較して系統発生的に解明する必要性から、分子遺伝学的解析に利点のあるサルであるマーモセットを被験者とする実験を追加することとした。これらの追加実験は現在研究が進行中であり十分な成果が得られるものと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
まず脳機能への抑制的介入の為に、ArchTを用いた実験を進める。光遺伝学的抑制の為には、広範囲な脳領域へのレーザー光照射が必要であるが、光照射強度を抑えるには、ヘモグロビン等の脳内吸光分子の吸収スペクトラムと重ならない波長領域の利用が有効となる可能性が考えられる。ArchTの活性化波長帯域を考慮しつつ、最適波長を調べる実験を行い、in vivoにおいては、in vitro における最適波長である532nmではなく、594nmレーザー光照射が最も広範囲の大脳皮質を活性化できるかどうかを検証する。 次に、大脳前頭葉の複数領域は、記憶の種類毎に特異的に機能するメタ記憶読み出し領域であることが判明したが、これらから統一的な確信度判断を導くプロセスは未知である。我々はこのプロセスに大脳頭頂葉と前頭葉の相互作用が重要であるとの仮説を持っており、fMRI法と局所神経活動抑制法によってこの仮説を検証する。
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