研究課題
本研究は、ドライバー遺伝子変異と発がんの人種差という腫瘍学および免疫学の長年の大きな課題に対してチャレンジすることで、免疫監視が作動しているHLAタイプでのT細胞応答を再現し、抗腫瘍免疫応答の本態を解明することを目的として実施した。すでに遺伝子変異が、がん局所の免疫応答に与える影響について解析を進め、ケモカイン環境の変化および代謝環境の変化を通じて免疫細胞浸潤に影響を与えることで、がん局所に強力な免疫抑制ネットワークを構築していることを明らかにした。さらにこれらのデータに基づき、現在臨床展開が進むがん免疫療法において、ドライバー遺伝子変異に対する阻害剤と免疫療法の併用の可能性を示し、発がんに関わる免疫応答に基づいたがん免疫療法の新たな併用療法の指針となったる。また、がん細胞で見られる遺伝子変異に対する免疫応答の解析(免疫監視側)からCD8+T細胞上のPD-1発現が TCRシグナル強度に依存していることを明らかにした。つまり、PD-1発現CD8+T細胞は、TCRに高親和性の抗原 (がん退縮に関連する遺伝子異常に由来するネオ抗原) 刺激を受けたと考えられることを明らかにし、抗腫瘍効果の本態に関わるエフェクター細胞である可能性を示した。一方、制御性T細胞上にも同様にPD-1発現がみられ、TCRおよび共刺激シグナルを減弱させることにより、疲弊状態を引き起こしていることを世界に先駆けて解明した。以上より、ネオ抗原から強いTCRシグナルを受けたCD8+T細胞ががん局所に多数存在し、免疫チェックポイント阻害剤によりそれらのCD8+T細胞の再活性化が優位であることが抗腫瘍活性につながっていることを明らかにし、CD8+T細胞上のPD-1発現と制御性T細胞上のPD-1発現レベルの差がPD-1阻害剤への反応性を規定する重要な因子であるというがん免疫療法の効果予測バイオマーカーに展開した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、3つを研究目的について以下の様に計画以上の進展が見られている。1) すでに15万人からなる日本人を対象とした肺腺癌および大腸癌に対する全ゲノム関連解析を実施し、HLA領域に複数の感受性遺伝子座を同定するに至っている。2) 1)で得られた遺伝子解析情報をもとに、免疫監視が作動している、もしくは作動していないHLAで、抗原提示されることが予測される遺伝子変異由来の異常タンパク質およびペプチドを作成した。これらを用いて、現在特異的CD8+T細胞を誘導し、分子発現、細胞機能の検討を進め、すでに遺伝子変異に対する免疫応答の解析から、CD8+T細胞上のPD-1発現がTCRシグナル強度に依存していることを解明し、抗腫瘍効果の本態に関わるエフェクター細胞である可能性を示した。さらに、ドライバー遺伝子変異自身が、がん局所の免疫応答に与える影響について解析を進め、がん局所に強力な免疫抑制ネットワークを構築しているメカニズムを明らかにし、予想を超える成果が得られていると考えている。3) ヒトHLAのトランスジェニックマウスを作成するとともにヒト検体を用いて、T細胞応答を検討する点についても細胞株での検討は、EGFRや他のドライバー遺伝子変異などについても細胞株を作成して検討を進め、ドライバー遺伝子変異自身が免疫抑制に直接関わっていることを解明した。また、発がんモデルマウスも作成が完了し、野生型マウスで発がんが認められた。一方、発がんリスクにかかわるHLA class Iアリルをトランスジェニックしたマウスについても作成が終了し、十分な繁殖が得られ、これらのマウスを用いた検討を現在順調に進めている。
研究を進める上で生じた問題点については、現在、全て解決でき、計画以上の研究進展が見えらているこことから、当初の研究計画調書から変更なく研究を進める。また研究代表者および研究分担者についても、現在のところ退職や異動の予定はなく、当初の研究体制を維持し、今後の研究を進めていく。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (33件) (うち査読あり 33件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 10件、 招待講演 18件) 図書 (2件) 備考 (1件) 産業財産権 (5件)
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