研究課題/領域番号 |
17H06172
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
白須 賢 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, グループディレクター (20425630)
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研究期間 (年度) |
2017-05-31 – 2022-03-31
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キーワード | 分子間相互作用 / 生物間相互作用 |
研究実績の概要 |
これまで未解明であった植物免疫シグナル伝達系の全容解明や、解析が難しかった病原体の感染機構に着目して解析を進める。これまでに本研究室で確立したオミックス解析基盤(ゲノム、トランスクリプトーム解析、プロテオーム、ケミカルゲノミクス)、そしてタンパク質構造解析基盤を駆使し、植物免疫や病原性に重要なタンパク質複合体の同定と機能解析を通して植物免疫システムを解明していく。 カルシウムセンサーであるイクオリンを発現させたシロイヌナズナを用いたスクリーニング系で、過酸化水素の添加時に細胞質内にカルシウム濃度が上昇しない変異体を11系統獲得し、この表現型がすべて劣性変異であることから、原因遺伝子が、過酸化水素を認識してカルシウム濃度を上昇させるシグナルに必須であることが示唆された。全ゲノムシークエンスにより、原因遺伝子がLRR-RLK(ロイシンリッチリピート・レセプター様キナーゼ)をコードしており、すべてのアリルの変異が同定された。また、この遺伝子が陸上植物で高度に保存されていることから、その機能も陸上植物で重要であることが考えられる。このタンパク質は膜貫通ドメインを持つLRR-RLKであることから、細胞膜タンパク質である可能性が高い。これを検証するため、蛍光マーカーであるGFPをC末にタグし、変異体の相補実験をおこなった。過酸化水素認識能力は回復し、共焦点顕微鏡によって細胞膜に局在することが明らかになった。また、C末の配列から抗原をデザインして作り、特異的抗体を作成して、その発現量を確認した。またシスティン残基を変異させたタンパク質を発現させ、機能に重要なシスティン残基を同定した。ベンサミアナタバコにおいて強発現させる系を確立し、mg単位の細胞外部位のタンパク質を得ることができた。また、下流のMAPキナーゼの活性化にこのタンパク質が必要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規ロイシンリッチリピート・レセプター様キナーゼが過酸化水素の認識に重要であることが、全ゲノムシークエンスベースのクローニングと相補実験の結果から確認された。さらに特異的抗体作製の成功により、さらなる機能解析が可能となった。機能に重要なシスティン残基が同定されたことは、どのようにして過酸化水素を認識するかの分子機構が明らかになる可能性が高い。また、ベンサミアナタバコにおいて強発現させる系を確立し、mg単位の細胞外部位のタンパク質を得ることができたことから、構造生物学的なアプローチも視野に入ってきた。本遺伝子下流のシグナル伝達系においてもMAPキナーゼカスケードの関与が示唆されたことにより、他変異体との掛け合わせ、リン酸化プロテオーム解析、遺伝子発現解析等の技術を利用しての全容解明へむけた手がかりがつかめたと判断する。よって、本課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
過酸化水素に反応できない変異体を用いて、本研究室が解析してきたトマト斑様細菌、アブラナ科ベト病菌、炭疽病菌等を用いて、その病原性を定量する。相補が確認された系を用いて、病原抵抗性を確認する。この変異体は過酸化水素に反応できないが、この変異体が他の物質についても反応性を失っているかを確認する。特に、鞭毛ペプチド、elongation factor ペプチド、キチン等のMicrobe Associated Molecular Pattern (MAMP)への反応が野生型と異なるかを、活性酸素の蓄積、Ca2+の蓄積、MAPキナーゼの活性化、カルスの蓄積、防御遺伝子群の活性化等を解析して明らかにする。化合物としてはキノン等の反応性が高い化合物に対しての反応が異なるかを詳細に解析する。また、過酸化水素認識直後の遺伝子発現解析をRNA-seq法を用いておこなう。この際、各変異体を用い、かつ精度をあげるためサンプル数を増やし、本研究室で確立できている安価なBrad-Seq法を用いて解析し、過酸化水素認識直後の遺伝子発現を構築する。また、植物免疫における重要タンパク質である、活性酸素発生酵素群等を中心に、これらタンパク質の複合体構成因子の同定をいくつかの相補的な手法を用いて試みる。主には免疫沈降法で精製した複合体を高感度質量分析器し、同定された因子は、シロイヌナズナやベンサミアーナタバコ等の植物内で発現させて、免疫沈降法や蛍光タンパク質をつかってその結合を細胞内で確認し、シロイヌナズナにおけるT-DNA KOやCRSIPR/CAS9の変異体解析や,ベンサミアーナタバコにおけるサイレンシングシステム・相補実験等を用いて機能解析を進める。病原体ゲノムについても数種のゲノムをPacBioシークエンサーで解析し、エフェクター候補を同定する。
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