研究課題
本研究室においてこれまでに解析をおこなってきた植物免疫における重要タンパク質である活性酸素発生酵素群とPAMP受容体群を中心に、これらタンパク質の複合体構成因子およびリン酸化タンパク質の同定を試みた。主には免疫沈降法で精製した複合体およびリン酸化ペプチドを高感度質量分析器した。同定された因子をPAMP受容体の結合因子と比較した所、両者のリストに含まれるLRR型受容体型キナーゼ (LRR-RLK)を同定した。シロイヌナズナにおける欠損変異体ではPAMP誘導性の活性酸素生成、MAPKリン酸化、及び病原細菌に対する抵抗性が亢進していた。一方で過剰発現体では、PAMP誘導性の活性酸素生成、MAPKのリン酸化、及び病原細菌に対する抵抗性が抑制されていた。これらの結果はこのLRR-RLKがPAMP誘導性の活性酸素生成、MAPK活性化、及び病原細菌に対する抵抗性を負に制御することを示している。また、PTIとETI誘導時のリン酸化プロテオーム比較解析をおこなって、共通にリン酸化されるタンパク質およびそのリン酸化部位を同定した。さらに、病原体の多様性から病原体因子を同定するため、各種病原体のゲノム・トランスクリプトームをおこない、病原体解析の分子解析基盤確立を推進した。このうち、C. orbiculareの再シークエンス、C. higginsianum、C. shisoi、C. trifolii, C. とC. spinosum. C. およびネコブ線虫と計6種のデノボゲノム解析をおこない、論文として発表した。同時に、機能的に重複するエフェクターを研究するために、複数の遺伝子破壊がしばしば必要とされるが、遺伝子ターゲティングに使用できる選択マーカーの数は限られている。そこで、C. orbiculareにおいて連続的な形質転換を可能にするマーカーリサイクルシステムを確立した。
2: おおむね順調に進展している
免疫沈降法で精製した複合体およびリン酸化ペプチドを高感度質量分析器で解析する技術が確立しており、実際に本技術によって同定した新規タンパク質が植物免疫に重要であることを変異体や過剰発現体を用いて示すことができた。また、PacBio Sequelシステムを用いて、デノボゲノム解析をおこなう技術を確立できたことにより、数多くの日本産病原菌の染色体レベルでのゲノムアセンブリーを完成できている。染色体レベルでのゲノムアセンブリーにより、全染色体レベルでの比較ゲノム解析が可能となり、例えば、染色体の欠損や置換などの詳細解析が可能となっている。真菌の病原菌はミニ染色体に病原性遺伝子を座乗させていることが報告され、ゲノムシークエンスによりミニ染色体が同定できることは大きな進歩と言える。これに加えて、マーカーリサイクル技術を確立できたことで、多数(例えば10遺伝子以上)の遺伝子をノックアウトすることが可能となる。これによって機能が重複するエフェクター遺伝子群のノックアウトを作り、表現型解析をおこなえば、病原性への関与を検証できる。
PTIを制御する因子として同定されたタンパク質群に関して、変異体や過剰発現体を用いて、PTIシグナル伝達系の何処で制御がおこなわれているかを引き続き解析する。例えば、活性酸素生成、及びMAPK活性化に影響を及ぼす場合は、その上流のPAMP受容体や共受容体等の上流因子を制御している可能性が示唆される。この場合は、PAMP受容体のタンパク質量を調べる等して、制御様式を明らかにしていく。また、病原細菌の侵入には気孔が重要であることから、気孔の開閉能等を詳細に解析して、制御部位を明らかにする。病原体ゲノムシークエンスを継続しておこない、病原性エフェクター候補の同定をおこなう。感染時に発現が上昇する、あるいは、変異が入りやすい等有望なエフェクター候補に関しては、マーカーリサイクル技術を用いて、ノックアウトを作成し、病原性の有無を確認する。さらに、CRSPR/CASシステム等を導入して、マーカーリサイクル技術の効率を上げる努力をする。表現型が確認できたエフェクターに関しては、蛍光タンパク質のタグを付け植物内で発現させ、細胞内での局在を確認し、かつ植物免疫を応答の抑制や活性化を誘導するかどうかを詳細に解析する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 7件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
Genome Biology and Evolution
巻: - ページ: evz087
https://doi.org/10.1093/gbe/evz087
Molecular Plant-Microbe Interactions
巻: - ページ: -
https://doi.org/10.1094/MPMI-12-18-0352-A
Plant Physiology
巻: 179 ページ: 1796~1809
10.1104/pp.18.01133
New Phytologist
巻: 221 ページ: 2160~2175
10.1111/nph.15523
Development
巻: 145 ページ: dev164848
10.1242/dev.164848
Molecular Plant Pathology
巻: 20 ページ: 447~459
10.1111/mpp.12766
Plant and Cell Physiology
巻: 59 ページ: 729~738
https://doi.org/10.1093/pcp/pcx200
Genome Announcements
巻: 6 ページ: 00519-18
10.1128/genomeA.00519-18
Nature Communications
巻: 9 ページ: 5192
https://doi.org/10.1038/s41467-018-07469-3
巻: 218 ページ: 710~723
doi: 10.1111/nph.15033
Current Opinion in Plant Biology
巻: 44 ページ: 82~87
https://doi.org/10.1016/j.pbi.2018.03.002
Tetrahedron Letters
巻: 59 ページ: 1136~1139
https://doi.org/10.1016/j.tetlet.2018.02.022
Methods in Molecular Biology
巻: 1795 ページ: 39~47
doi: 10.1007/978-1-4939-7874-8_4
巻: 1830 ページ: 163~189
https://doi.org/10.1007/978-1-4939-8657-6_11
植物の生長調節
巻: 53 ページ: 53~59
https://doi.org/10.18978/jscrp.53.1_53
植物病疫
巻: 72 ページ: 18~21
http://plantimmunity.riken.jp/index_ja.html