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2017 年度 実績報告書

炎症の終息と組織修復に関与する免疫細胞システムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 17H06175
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

吉村 昭彦  慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (90182815)

研究期間 (年度) 2017-05-31 – 2022-03-31
キーワード制御性T細胞 / 獲得免疫 / 慢性炎症 / 脳梗塞 / 組織損傷 / 創傷治癒 / アストロサイト / 神経症状
研究実績の概要

組織損傷に伴う炎症は、組織にマクロファージなどの炎症細胞を集積させ創傷悪化や機能回復の遅れにつながる。一方で炎症は組織修復に必須のプロセスでもある。その実態は近年ようやく明らかになってきた。我々は脳梗塞という組織破壊に伴う無菌炎症におけるマクロファージを中心とした自然免疫と、制御性T細胞を中心とした獲得免疫が関与することを明らかにして来た。虚血によって脳組織が壊死に陥ると、発症後1~3日の早期にマクロファージや好中球などの炎症細胞が脳内に浸潤する。特に発症後1日目のマクロファージは、IL-1βやIL-23,TNF-αなどの炎症性サイトカインを産生して炎症を促進する。一方で、梗塞発症4日目を過ぎるとペルオキシレドキシンやHMGB1などのDAMPsはマクロファージにより急速に細胞内に取り込まれて、リソゾームによって分解される。以上のように脳梗塞後の炎症は自然免疫が主体で、それ以降の慢性期において炎症は収まっていると考えられてきたため、免疫細胞の役割についてはほとんど解析されていなかった。ところが我々は実験的脳虚血再灌流(MCAO)モデル(脳梗塞モデル)において発症2週目以降の慢性期に制御性T細胞(Treg)が脳内に集積することを見出した。脳内Tregは最近注目されている組織Tregと性質が近い。IL-33受容体を発現し、IL-33によって増殖すると同時に、アンフィレグリンを産生しアストログリオーシスを制御していることがわかった。さらに脳特異的な性質として7型セロトニン受容体を発現し、セロトニンに応答して増殖しTregとしての機能分子の発現強化が見られた。Tregの組織特異的なフェノタイプを解析することによって、組織特異的なTregを誘導、増殖することができれば、Tregを用いた組織特異的な治療法の開発につながることが期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

これまで炎症が治まっているとされていた組織損傷後の慢性期に、実験的脳虚血再灌流(MCAO)モデルを用いることで実際はTregを中心とした獲得免疫が発動していることが明らかとなった。Tregが集積しているために見た目の炎症は抑制されているものと思われる。さらに脳Tregが慢性期の神経症状の改善に重要であることが示され、分子機構の一旦も明らかにされた。

今後の研究の推進方策

これまでの研究では明らかにされていない脳内因子および脳特異的抗原による脳Tregの増幅機構と脳Tregの性質を付与する機構を解明し、広く神経炎症におけるTregの意義を解明する。(1)すでにマイクロアレイを用いた脳Tregと抹消あるいは他組織のTregとの遺伝子発現の比較によって脳Tregに特異的な転写因子群を複数同定している。このなかでPPARγは脂肪組織Tregと共通であるものの候補として重要と考えられる。またNr4a遺伝子群も他の組織Tregよりも高い発現が認められた。そのほか脳神経系と関連ある転写因子の検索を行う。特に脳Tregに特徴的なセロトニン受容体HTR7の発現解析を行い、プロモーター領域に結合しうる転写因子を検索する。これらの候補遺伝子の欠損マウスよりTregを単離し脳梗塞モデルマウスに移入することで脳Tregの発生に必要かどうかを検討する。(2)脳内に浸潤するTregの抗原特異的TCRを同定する。脳梗塞慢性期に脳内に浸潤したTregのTCRを次世代シーケンサーで解析したところ、TCRレパトアの顕著な偏りが認められた。さらに、TCRのアミノ酸配列を解析したところ共通のTCRをもつTregが増えており、オリゴクローナルな増殖が認められた。これらの結果をふまえ脳Tregの特異的TCRを同定する。さらにその抗原の探索も行う。(3)他の脳内炎症性疾患への展開を行う。脳梗塞慢性期の研究と同様にTregが多発性硬化症、アルツハイマーやパーキンソン病などのモデル系の感受性を変更できるか、できるとすればTregが何を認識し、どのような因子を介しているのかを明らかにする。その病態が自己抗原の免疫や誘導因子によって変化するのか、脳内炎症の抑制、組織修復をもたらしているかを検討する。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Central South University(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      Central South University
  • [国際共同研究] La Jolla Institute for Immunology(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      La Jolla Institute for Immunology
  • [雑誌論文] NR4A transcription factors limit CAR T cell function in solid tumours2019

    • 著者名/発表者名
      Chen Joyce、Lopez-Moyado Isaac F.、Seo Hyungseok、Lio Chan-Wang J.、Hempleman Laura J.、Sekiya Takashi、Yoshimura Akihiko、Scott-Browne James P.、Rao Anjana
    • 雑誌名

      Nature

      巻: 567 ページ: 530~534

    • DOI

      10.1038/s41586-019-0985-x

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Loss of TET proteins in regulatory T cells promotes abnormal proliferation, Foxp3 destabilization and IL-17 expression2019

    • 著者名/発表者名
      Nakatsukasa Hiroko、Oda Mayumi、Yin Jinghua、Chikuma Shunsuke、Ito Minako、Koga-Iizuka Mana、Someya Kazue、Kitagawa Yohko、Ohkura Naganari、Sakaguchi Shimon、Koya Ikuko、Sanosaka Tsukasa、Kohyama Jun、Tsukada Yu-ichi、Yamanaka Soichiro、Takamura-Enya Takeji、Lu Qianjin、Yoshimura Akihiko
    • 雑誌名

      International Immunology

      巻: 印刷中 ページ: 印刷中

    • DOI

      10.1093/intimm/dxz008

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Brain regulatory T cells suppress astrogliosis and potentiate neurological recovery2019

    • 著者名/発表者名
      Ito Minako、Komai Kyoko、Mise-Omata Setsuko、Iizuka-Koga Mana、Noguchi Yoshiko、Kondo Taisuke、Sakai Ryota、Matsuo Kazuhiko、Nakayama Takashi、Yoshie Osamu、Nakatsukasa Hiroko、Chikuma Shunsuke、Shichita Takashi、Yoshimura Akihiko
    • 雑誌名

      Nature

      巻: 565 ページ: 246~250

    • DOI

      10.1038/s41586-018-0824-5

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Pulmonary phagocyte-derived NPY controls the pathology of severe influenza virus infection2018

    • 著者名/発表者名
      Fujiwara Seiki、Hoshizaki Midori、Ichida Yu、Lex Dennis、Kuroda Etsushi、Ishii Ken J.、Magi Shigeyuki、Okada Mariko、Takao Hiroyuki、Gandou Masahiro、Imai Hirotaka、Hara Ryujiro、Herzog Herbert、Yoshimura Akihiko、Okamura Hitoshi、Penninger Josef M.、Slutsky Arthur S.、Uhlig Stefan、Kuba Keiji、Imai Yumiko
    • 雑誌名

      Nature Microbiology

      巻: 4 ページ: 258~268

    • DOI

      10.1038/s41564-018-0289-1

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Nr4a Receptors Regulate Development and Death of Labile Treg Precursors to Prevent Generation of Pathogenic Self-Reactive Cells2018

    • 著者名/発表者名
      Sekiya Takashi、Hibino Sana、Saeki Keita、Kanamori Mitsuhiro、Takaki Satoshi、Yoshimura Akihiko
    • 雑誌名

      Cell Reports

      巻: 24 ページ: 1627~1638.e6

    • DOI

      10.1016/j.celrep.2018.07.008

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 制御性T細胞による炎症疾患制御2018

    • 著者名/発表者名
      吉村昭彦
    • 学会等名
      第52回日本眼炎症学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 組織制御性T細胞(Tissue-Treg)による組織損傷の修復2018

    • 著者名/発表者名
      吉村昭彦
    • 学会等名
      第33回 自己免疫疾患研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] 脳梗塞後の炎症の収束と組織修復のメカニズム2018

    • 著者名/発表者名
      吉村昭彦、伊藤美菜子
    • 学会等名
      第62回サイトカインインターフェロン学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 制御性T細胞のエピジェネティク改変による免疫疾患制御2018

    • 著者名/発表者名
      吉村昭彦
    • 学会等名
      第25回 日本免疫毒性学会
    • 招待講演
  • [学会発表] Regulation of Inflammation after Stroke by Macrophages and Regulatory T Cells2018

    • 著者名/発表者名
      吉村昭彦、伊藤美菜子
    • 学会等名
      Keystone Symposia on New Frontiers in Neuroinflammation,
    • 国際学会
  • [備考] 脳梗塞慢性期において神経症状を回復させる新規脳内T細胞を発見

    • URL

      https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2019/1/7/28-50388/

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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