研究実績の概要 |
脳血管障害、脳・脊髄の外傷などの局所中枢神経障害、高次脳機能障害、神経障害性疼痛などの神経疾患においては、神経系のみならず免疫系、脈管系、様々な臓器からなる生体システムに時空間的変化をきたし、病態が形成される。本研究では、中枢神経回路の障害、その後の修復過程を、生体システムの機能ネットワークの観点から解析し、生体システムの時空間ダイナミクスによる一連の過程の制御機構の統合的解明に取り組む。特に、「神経系と各臓器」の連関による制御機構を見いだすことを本研究の到達目標とする。中枢神経回路障害と機能回復の過程を、生体システム全体のダイナミクスとして捉え、神経系と各システムの連関を統合的に解析することで、中枢神経回路障害における生体の動作原理を明らかにする。当該年度には、神経回路障害と修復の制御に関わる生体システムの空間的・時間的解析を行った。また中枢神経回路の構築に、末梢の免疫系細胞がどのように関わるかについて検討を加えた。その結果、B-1a細胞は自然抗体を産生してオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促進することで脳の発達に寄与しているという知見を得て、論文発表した(Nat. Neurosci., 2018)。さらに脈管系細胞と神経細胞のクロストークによる神経回路の構築機構の解明のための研究を進めた。各臓器による神経回路障害と修復の制御機構の解明を目的として研究を進めた結果、膵臓や肝臓などの臓器がFGF21を分泌し、EAE病態下での神経回路の修復を促進していることを見いだしている(J. Clin. Invest., 2017)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ミクログリア、マクロファージ(M1, M2)、helper T細胞(Th1, Th2, Th17, Tregなど)、B細胞、新生血管細胞(CD105陽性細胞)などの挙動、そして膵臓、肝臓、心臓など各種臓器での細胞の挙動を、FACSを用いて解析した。 また中枢神経回路の構築に、末梢の免疫系細胞がどのように関わるかについて検討し、新たな知見を得た。発達期の脳では、リンパ球であるB細胞が豊富に存在しており、成長に伴って減少していくことが確認された。このB細胞は、B-1a細胞と呼ばれるサブタイプであり、血中の未成熟なB細胞がCXCL13-CXCR5依存的に脳に移行していくことを示した。B-1a細胞の機能を明らかにするために、B細胞を除去させる抗体を発達期のマウスの脳に投与したところ、オリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖が抑制され、成熟したオリゴデンドロサイトの数も減少した。B-1a細胞は自然抗体を多く産生する。自然抗体の受容体であるFcα/μRの機能阻害抗体を発達期の脳に投与したところ、オリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖と成熟オリゴデンドロサイトの減少が観察された。さらに、発達期にFcα/μRの機能阻害抗体を投与したところ、生後21日目の幼若期では髄鞘を形成している軸索の数が減少していた。以上の結果から、B-1a細胞は自然抗体を産生してオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促進することで脳の発達に寄与していることが示された。本研究成果を、Nature Neuroscience (2018)に公表した。 一方、各臓器による神経回路障害と修復の制御機構の解明を目的として、研究を進めた結果、膵臓や肝臓などの臓器がFGF21を分泌し、EAE病態下での神経回路の修復を促進していることを見いだし、論文発表した(J. Clin. Invest, 2017)。
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