研究課題
本研究計画では、ウイルス感染に伴う宿主高次エピゲノムの変動、ウイルスと宿主エピゲノムの相互作用を解析し、高次エピゲノム作動原理を明らかにし、これらを基に遺伝子欠損細胞・マウス、変異ウイルスなどを駆使して、高次エピゲノム変化がウイルス感染症の病態形成や重症化につながる分子基盤を解明する。次いで、重症化につながるエピゲノム修飾を同定し、早期診断・先制医療への応用の可能性を探る。さらに病態形成に関与するエピゲノム修飾に関しては、これを標的とした抗インフルエンザ薬の候補化合物の探索を行う。以上を通して、未だ救命に繋がる有効な治療法のない重症ウイルス感染症に対する新規治療戦略確立のための学術的基盤情報の獲得を目指す。当該年度は、前年度の研究成果を発展させて、慢性呼吸器疾患、糖尿病といった宿主側の因子が、インフルエンザウイルス感染症の病態に及ぼす影響を高次エピゲノム変化の観点から解析した。とくに肺がんや慢性肺疾患などの患者検体を用いた解析を行い、これらの疾患に関連したエピゲノム変化と重症化の関係を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は、前年度の研究成果を発展させて、慢性呼吸器疾患、糖尿病といった宿主側の因子が、インフルエンザウイルス感染症の病態に及ぼす影響を高次エピゲノム変化の観点から解析した。とくに肺がんや慢性肺疾患などの患者検体を用いた解析を行い、これらの疾患に関連したエピゲノム変化と重症化の関係を明らかにした。本研究でこれまでに同定したヒストンメチル化酵素に関して、ウイルスタンパク質との相互作用が病態形成にかかわるクロマチン3D構造変化の起点になっているので、同相互作用は抗インフルエンザ薬の創薬標的になりうる。研究協力者と連携して結晶構造解析を進め、それを基にin silicoでこれらの相互作用を阻害するような化合物のスクリーニングを進め、抗ウイルス薬開発の可能性を探った。また、本研究においてこれまでにインフルエンザの病態形成に関わる宿主細胞のヒストン修飾変化はがんや慢性疾肺疾患を有するヒトでは既に変化が見られていることが分かった。エピゲノム変化がどのようなメカニズムでウイルス感染症の重症化に関与するかを明らかにし、重症化を予測するバイオマーカーとしての可能性を検討した。
本年度は、ウイルス感染に伴う高次エピゲノム変遷動態の数理モデル化とその生物学的意義の検証を行う。最近クロマチン構造動態を数理モデルで表す試みがなされている。研究協力者の新海博士は、細胞のDNAに付けた蛍光分子の動きを精密に計測することによって、クロマチンの空時間的動態を数理モデル化することに成功した(PLOS Computational Biology, 2016)。本研究では、新海らと連携して、前年度までに取得したChIP-seqやHi-Cなどのシークエンス情報やウイルスタンパク質と宿主エピゲノム関連タンパク質の相互作用情報を基に、インフルエンザウイルス感染に伴うクロマチンドメインの変遷動態を数理モデル化を行う。さらに免疫関連遺伝子に焦点を当てたFISH(Fluorescence in situ hybridization)解析を通して、数理モデルの検証を行い、ウイルス感染によるクロマチン変遷動態のシミュレーションを活用した、遺伝子発現予測や創薬への応用を目指す。
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