本研究ではインフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV2)等のウイルス感染に伴う宿主高次エピゲノムの作動原理について研究した。インフルエンザウイルス感染に伴って宿主クロマチンの構造がダイナミックに変化すること、特にH4K20のトリメチル化酵素であるSuv4-20h2は非感染状態では、クロマチン構造の維持に関っているコヒーシンと結合しているが、感染に伴ってSuv4-20h2とコヒーシンの結合が低下して、特定のゲノム領域のバウンダリーにローディングして、クロマチンループが形成され、同領域の遺伝発現が誘導され、感染病態の形成に関わることを見出した。このようなコヒーシンを介したクロマチンの構造変化(ループ形成等)を介したエピジェネティクス制御はウイルス感染症の新しい治療法やバイオマーカーの開発につながることが示唆された。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生後、臨床検体を使ったエピゲノムを含むオミクス解析を行い、COVID-19 の重症化とヒストン脱メチル化酵素を中心としたエピジェネティクス制御に関する知見を得た。さらに、健常高齢者の臨床検体を用いたシングルセル解析から非感染状態において、個人個人でエピゲノム(オープンクロマチン構造等)状態が異なり、免疫学的多様性に関わっていることを明らかにした。これはウイルス感染症に対する精密医療の基盤情報となるものである。
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