研究課題/領域番号 |
17H06197
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中島 祥好 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (90127267)
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研究分担者 |
Remijn GerardB. 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (40467098)
高木 英行 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (50274543)
上田 和夫 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (80254316)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 音声 / スペクトル / 聴覚 / 音節 / 鳴音性 |
研究実績の概要 |
初年度の研究により、既存(市販)のイギリス英語音声データベースに録音時のノイズ混入、音素ラベルを付ける方針に関する不整合などの不備が認められたので、新たにイギリス英語に近いアイルランド英語の音声データベースを作ることにした。本年度は音素ラベルを付与する作業を進め、三分の一くらいを終えた。音素ラベルの妥当な付けかたについて試行錯誤をくり返したのでまだ多くの作業を残しているが、現在は軌道に乗っている。出来上がった部分を試験的に分析し、音節形成、カテゴリー知覚などの音声コミュニケーションにおける重要な現象に対して、納得のゆく結果の得られることを確認した。英語における頭子音連結および前置詞句について音韻論と音響的分析とを融合させた研究を進め、因子空間中における音素の配置と鳴音性の時間変化とについて数理科学的な検討を進めた。一方、このような因子が音声知覚のうえでどのような役割を果たすかについて、過去の実験データを再分析することにより、考察を進めている。さらに、音声のどのような音響的性質が、メッセージを伝えやすくするかについても実験を進めている。特に、独自に開発したモザイク音声を用いた実験を多数行い、あるいは関連する過去のデータを分析した。また、当研究グループに蓄積されている乳幼児音声、霊長類音声のデータベースを整理し、関連付けを進めている。 中庸の速度の英語の文章音声に含まれるポーズの時間長を体系的に変化させ、聴取者の受ける印象がどのように変わるかについて、日本語圏、中国語圏、英語圏において実験を行った。全てのポーズの時間長を揃えたときにはポーズの時間長を約 0.6 秒にしたときに、いずれの言語圏においても最も自然な印象の得られることが判った。一方では、英語母語話者に模擬的なパブリック・スピーキングを行ってもらい、ポーズの時間長を含むさまざまな特徴について、多変量解析を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語学において音がどのように区別されまとまりを作るかを扱う音韻論と呼ばれる分野があり、貴重な知見が蓄積されているが、実証科学の立場からの検証に耐えるとは言いがたい部分を多く残している。そのような研究領域に関して、音響分析、聴覚実験の手法によって実証的な裏付けを固めてゆくことが、本計画の核となる部分であり、その際に欠かせないものが音素ラベル付きの英語音声データベースである。初年度には、市販のデータベースに録音の不備、ラベル付けの誤りを含む問題のあることから、迷うところが多かったが、本年度には独自のデータベースの作成が軌道に乗り、できあがった部分を試験的に用いた音響分析、試聴においても納得のゆく結果が得られた。このように、本計画の根幹において計画当初に望んだような成果の得られる目処が立ったので、おおむね順調であると判断した。 モザイク音声を用いる実験や、ポーズの時間長を変化させる実験は、音声の聴こえかたについて考察を行ううえで有益であると考えられ、本年度にはまとまった量のデータが得られた。英語パブリック・スピーキングに関しては、音声の音響的分析に関しても意義深いデータが得られた。さらに、本計画と関連の深い音声強調技術が実用化に近づき、今後本計画にも役立つデータを提供する見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画のとおり、言語学における音韻論を、厳密な音響分析と聴覚実験とに結びつけ「音響学的音韻論」と呼ぶべき研究分野を創出する。将来普遍的な理論を構築することを念頭に置き、どのような言語にも見出される「音節」の形成について、主として英語を対象として考察を進める。具体的には、英語音声データベースを完成させ、データベースに含まれる音声、あるいは関連する別の英語音声のスペクトル変化に対して因子分析を施し、因子空間上の音声の動きを見ながら、英語音節におけるカテゴリー知覚や、子音連結の規則性などの現象に対する理解を深める。この際に、各周波数帯域における音の強さの変化を近似するために、独自に開発した因子分析の手法を用いる。当研究グループの構築した乳幼児音声、霊長類音声のデータベース、市販の世界の諸言語の音声のデータベースについても、因子空間中における音声の動きを観測する方法を確立する。 以上から得られた知見を活かして、高齢者にも聴きとりやすく音声を加工する技術である音声強調や、説得力のある発音を目指す体系的な英語教育などへの応用についても研究を進める。音声強調については、本研究に関連する手法によって音声伝達環境の品質評価を行う技術について特許出願をしたので、その成果の一部を事業化に差支えのない形で公表する。英語教育に関しては、英語の非母語話者に対して、英語音声に適切にポーズを入れたり、適切に強弱の制御を加えることを、比較的少ない努力によって実現し、説得力のある英語プレゼンテーションを可能にする方法を提案する。 最終年度の11月初めにトルコのアンタルヤにおいて国際精神物理学会が、また12月初めに福岡において日本音響学会聴覚研究会が開催されるので、それぞれにおいて本計画のまとめとなる(聴覚と音韻論の両方に関わる)特別セッションを設け、研究成果を公開し記録する場とする。
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