研究課題/領域番号 |
17H06200
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹谷 純一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (20371289)
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研究分担者 |
渡邉 峻一郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任准教授 (40716718)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 単結晶 / スピントロニクス / スピントランジスタ |
研究実績の概要 |
独自に開発した高移動度の有機単結晶半導体が、極めて長いスピン拡散長を有するという最近の実験結果に基づいて、有機単結晶スピントロニクスデバイスの作製・評価を行い、世界初となる室温における有機スピントランジスタの実証を目的とする。初年度は、有機半導体におけるスピン軌道相互作用に着目した新規材料の化学合成・薄膜成膜技術の開発と薄膜デバイスにおけるスピン緩和機構の解明を目的として研究を遂行した。 フレキシブルスピントロ二クス素子を構成する最重要ビルディングブロックは、超薄膜の有機半導体単結晶である。本年度は、スピン軌道相互作用に着目した有機合成を進め有機半導体の硫黄原子をカルコゲン族原子へ置換した材料群を展開すると共に、有機半導体材料のスピン物性の当k製解析を進めることにより、厚み方向にわずか1~2分子層で形成される超薄膜有機半導体単結晶を成膜することに成功した。このようにわずか数分子膜においても良好な電子伝導性が得られた。本研究成果はScience Advances誌に受理され、またNature Nanotechnology、Nature Electronics誌等のハイインパクトなジャーナルにもハイライト記事が記載された。 さらに、スピンをプローブとしたスペクトロスコピーを実施し、有機半導体素子性能を支配する要因が、ナノスケールの分子振動であることを明らかにした。本研究成果は、Nature Physics誌に受理され、さらに同誌のNews and Viewsにハイライトされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
有機単結晶スピントランジスタの実現を目指した3項目の研究課題うち、①スピン軌道相互作用に着目した有機合成、②有機半導体単結晶のスピン物性の解明、③プリンテッドプロセスと適用する微細加工技術の開発の全ての項目を並行して行い、それぞれに顕著な結果が得られた。 まず、スピン軌道相互作用を評価しうる含カルコゲン低分子材料の合成に成功し、酸素・硫黄・セレンを含む材料の系統的な合成と結晶構造解析に成功した。さらに、フレキシブルスピントロニクス素子のコアであるわずか数分子層からなる超薄膜有機半導体単結晶の大面積塗布技術の確立に成功した。本手法は下地の基板に制限がなく、さらに4インチウエハーサイズに渡り均質な単結晶薄膜を作製できる。また、スピン共鳴測定や、ラマン分光測定に加え、低温電子輸送測定の実験結果と理論を包括的に組み合わせ、有機低分子特有のフォノンにおける分子振動の効果を明らかとした。この知見をもとに、有機半導体分子で達成しうる最大の移動度は、シリコンにも匹敵する>500 cm2V-1s-1になり得ることを予想し、さらに、有機半導体におけるスピン緩和時間はグラフェンや無機半導体を凌駕するほど長いことが実験的に明らかとなった。スピントランジスタ作成においては、金属電極を基板に埋め込み、表面平滑性を担保した上で、均質な単結晶薄膜を作成できる手法を確立し、電子線リソグラフィーと適合性の高い微細加工技術の確立が達成されたと言える。初年度に計画した項目成されただけでなく、次年度の研究計画を前倒し、基盤技術の確立ができたため、研究計画は当初の予定より進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に確立した超薄膜有機半導体分子のスピン緩和機構にについて、スピン共鳴やラマン分校計測技術をベースに掘り下げ、室温付近でさらに長スピン緩和長が実現する物質開拓を行う。前年度に系統的に合成した含カルコゲン分子のスピン緩和長の調査し、スピン軌道相互作用とスピン緩和機構に関しても系統的に調べる。また、スピントランジスタ作製においても必要な技術要件は確立されたため、デバイス実装を進め、室温における電気的スピン注入・検出を目指す。
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