研究課題/領域番号 |
17H06201
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
室 隆桂之 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (50416385)
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研究分担者 |
松下 智裕 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 情報処理推進室, 室長・主席研究員 (10373523)
水野 潤 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 上級研究員(研究院教授) (60386737)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 阻止電場型分析器 / 球面グリッド / 高エネルギー分解能化 |
研究実績の概要 |
H30年度では、H29年度に引き続き、ディスプレイ型分析器である阻止電場型分析器の高エネルギー化の実現に向け、阻止電位電極である球面グリッドの製作方法および表面処理方法の開発に取り組んだ。阻止電場型分析器では、阻止電位電極の近傍で電子が減速されるため、球面グリッドの表面の仕事関数の不均一性がエネルギー分解能に影響する。仕事関数の均一化については、これまでに球面グリッドへのグラファイト微粒子の塗布による効果を確認している。しかし、塗布ムラが発生するため、より均一性の高いコーティング方法が必要であった。そこでH30年度では、均一性を向上させるため、専用の真空蒸着のシステムを構築し、金蒸着を実施した。その結果、これまで観測されていた二次元検出器の場所に依存した光電子スペクトルのピークエネルギーのずれを解消することに成功した。以上では、球面グリッドにワイヤーメッシュを用いたが、阻止電場型分析器のエネルギー分解能はメッシュの開口面積の不均一性にも影響を受ける。そこでH29年度に引き続き、開口面積の均一な球面グリッドの機械加工による製作を進めた。H29年度では平板での加工テストを実施したが、H30年度では球面での加工を進め、グリッドの角度範囲はまだ狭いものの、φ50μmの均一な穴径を持つ球面グリッドの製作に成功した。このグリッドは、H31年度に放射光を用いて性能評価を行う予定である。また、H29年度にディスプレイ型分析器を物性研究に適用するための実験ステーションをSPring-8に構築したが、H30年度では表面研究への適用に向けて試料準備槽を整備し、シリコン清浄表面の初期酸化の光電子スペクトルおよび光電子回折の測定において端緒的な実験結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度の計画の一つは、阻止電場型分析器の高分解能化に必要な阻止電位電極の仕事関数の均一化のため、球面グリッドに金蒸着を行うことであった。これに対し、H30年度に蒸着システムを構築して蒸着を実施し、その効果を実験的に確認することができた。また、本研究で目標とするエネルギー分解能を最終的に実現するためには開口面積が均一な球面グリッドの製作が必要であるため、機械加工の加工精度の向上を研究計画として挙げていたが、これについては、H29年度で進めた平板での加工テストを基に、H30年度において実際に球面グリッドを加工することに成功した。以上のことから、これまでのところ本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度では、予定していた球面グリッド(ワイヤーメッシュを用いたもの)への金蒸着による仕事関数の均一化の効果を確認することができた。H31年度では、さらに球面グリッドへの炭素蒸着の効果も確認する。炭素蒸着の場合、球面グリッドで発生する二次電子が軽減し、観測する光電子回折パターンの質的向上が期待できる。また、これらのコーティングを行った球面グリッドを装着したディスプレイ型の阻止電場型分析器を用い、実際に光電子ホログラフィー実験を行う。また、H31年度においては、開発した分析器を用いて本研究の目標である構造と電子状態の同時観測実験を試みる。一方で、ワイヤーメッシュによらない穴面積の均一な球面グリッドの製作については、これまで機械加工の条件だしを進め、H30年度に試作品を製作することができた。光電子の取込角度はまだ狭いが、分析器に組み込んで放射光を用いた性能評価を行うことが可能な形状にまで加工することに成功した。この評価を、H31年度の5月に予定している。この評価結果を製作過程に直ちにフィードバックし、加工条件を改善して取込角度をさらに広げた球面グリッドを製作する。最終的に、これらの要素開発を統合し、実際に物性研究に用いることができる高分解能ディスプレイ型光電子分析器を実現する。
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