研究課題
本年度は、ポジトロニウムの冷却用光源の製作、遷移周波数計測のためのフェムト秒周波数コムの製作、およびシリカ微小キャビティを用いた冷却の開拓を下記のように進めた。729nmの外部共振器型半導体レーザーを製作し、これをシード光とする安定化を施したチタンサファイアパルスレーザーを設計、構築した。共振器の反射率を適切に設定することで、ポジトロニウムの寿命を超えるパルス幅のパルス発振に成功した。次に、冷却に必要なパルスエネルギーを得るためQスイッチYAGレーザーの第二高調波で励起したチタンサファイア結晶を用いてマルチパスアンプを構築し、増幅が機能することを確認した。また、エタロンを用いた発振スペクトル測定の準備を進めた。一方、加速器施設等での実験時間の制限を考慮し、比較的コンパクトな可搬チタンサファイア光周波数コムを製作した。小型光学定盤上に、長期安定なモード同期チタンサファイアレーザーを製作し、f-2f干渉計を用いて検出したオフセット周波数を安定化した。繰り返し周波数の安定化は、ルビジウムセルを用いて原子遷移に外部共振器型半導体レーザーをロックし、これに対して光周波数コムの1本の櫛をロックすることで周波数安定化を実現した。また、ポジトロニウムを効率良く冷却するために、シリカ微小キャビティ中に封じ込めることを予定している。この微小キャビティ製作手法を開発した。インプリントによる方法と電子リソグラフィによる方法を両方試し、どちらでも100nmサイズの空孔を製作出来た。このキャビティにKEK低速陽電子ビームを照射し、ポジトロニウム生成率等の基礎スタディをおこなった。また、シリカエアロゲルを用いてシリカ壁とのエネルギー交換による冷却パラメータも測定した。その結果、低温になるとエネルギー交換効率が落ちることが判明した。ただし、効率の低下はレーザー冷却で補える範囲であった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していたポジトロニウムのレーザー冷却用の光源開発は、およそ順調に進んでいる。当初は電気光学変調器を用いて光スペクトルに変調を加えた単一縦モードレーザーを用いて、パルスチタンサファイアレーザーを注入同期する計画であったが、レーザー共振器内に電気光学素子を配置する試みを進めている。この点は全体計画においては小さな変更であり、進捗に影響はないものと考えている。一方、当初は検討を進める程度の予定であった、ポジトロニウムの遷移周波数の絶対周波数測定に用いるフェムト秒光周波数コムについては、実際に加速器実験施設においても使用可能な可搬で小型なシステムの構築に成功した。これは当初計画を超えた進捗である。さらに、当初計画を上回る進捗として、レーザー冷却の前段階の冷却に重要な、シリカエアロゲルとポジトロニウムのエネルギー交換に関する実験的研究をKEK低速用電子ビームを用いて進めることができた。
平成30年度内の完成を目指して、ポジトロニウムのレーザー冷却用の光源開発を引き続き継続する。平成29年度に行った実験を通じて、必要な光源のスペックを満たすための現実的な方策を立てることは出来ており、これに則って進める。想定できない実験上の問題が発生する可能性はあるため、スペクトル幅の拡大、パルスエネルギーの向上と第3高調波の発生についてペースを上げて取り組む予定である。また、平成29年度には研究室外で動作する可搬なチタンサファイアフェムト秒周波数コムの構築に成功しているが、平成30年度はこの光源の長期安定度の向上や遠隔制御機能の搭載を進めることで、最終年度に行う予定の、ポジトロニウムの遷移周波数の絶対測定にスムースに移行出来るよう周到に準備を進める。加えて、レーザー冷却によって低温化したポジトロニウムの温度測定もレーザーを用いて行うことが必要であり、この光源に関しても平成30年度内の完成を目指して検討、構築を進める。
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