研究課題
ポジトロニウム(Ps)のレーザー冷却のためには、Psの寿命程度のパルス幅と、シリカエアロゲルによる予備冷却後の温度に対応する、広いスペクトル広がりを持つ特殊なパルス光源の開発が必要であった。本年度は単一縦モード外部共振器型半導体レーザーに注入同期させ、電気光学変調器を共振器内部に配置したチタンサファイアパルスレーザーを開発し、パルス幅約500ns、スペクトル幅約20GHz、波長729nmのパルス発生に成功した。既に準備が完了している増幅を行い、三倍波発生を通じて243nmに変換することで、Psの冷却用レーザーが完成する。なお、低繰り返しレーザーの単ショットでのスペクトル幅観測のため、特注エタロンを用いた測定系を構築した。加えて、陽電子ビームを用いたPsの発生タイミングに対して、相対的に冷却用レーザーパルスの照射タイミングを調整するため、励起レーザーの出力タイミングの電気的制御を行った。また、Psの遷移周波数の精密な測定に用いる可搬型フェムト秒光周波数コムの安定化を進めた。一方、Ps生成材料の選定はKEKの低速陽電子施設(SPF-B1ビームライン)で実施した。従来の陽電子ビームは時間的、空間的にひろがった構造を持っているため、Psの高密度な発生のためには支障がある。そこで+5300Vの高電圧パルスチョッパーを製作、導入し、また、磁気集束レンズを設置した。これにより、陽電子ビームを16nsの短パルス、直径1.5mm(半値全幅)まで絞ることができた。陽電子集束点にPs生成材料候補を配置し、生成率を測定した。現在までに、JFCC製の0.5mm厚シリカエアロゲルで約50%の高い生成効率が得られることが明らかになっている。加えて、3月のビームタイムにおいては、集束点のシリカエアロゲルに1S-2P遷移用の243nmレーザーを照射して実験を実施した。この結果については現在解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
ポジトロニウムのレーザー冷却のための特殊なパルス光源は完成目前であり、陽電子ビームラインでの実験を想定した光学系の寸法で構築することを含めて準備が進んでいる。光源開発として最も困難が想定された部分は本年度に達成することができ、パルス増幅や三次高調波発生の準備も既に完了している。光周波数コムによる遷移周波数の測定も可搬なセットアップで実施できることも実証することができた。また、高密度なポジトロニウム生成のための低速陽電子ビームの短パルス化、空間収束を実現することができた。冷却レーザー照射前のポジトロニウムの発生と熱化、および紫外照射のための材料には現在、シリカエアロゲルを有力な候補としており、陽電子ビーム照射に対するポジトロニウムの生成効率の評価を進めることができた。さらに、レーザー冷却に用いる遷移に同調したレーザーを照射する試行を行い、レーザー冷却実証実験のための準備を着実に進めることができた。以上の状況から、本研究課題はおおむね順調に進展しているものと判断した。
次年度は本研究課題の最終年度であり、ポジトロニウムの世界初のレーザー冷却を実証したい。冷却用光源の準備は順調であり、ポジトロニウムの生成と熱化のための材料の確定および、ポジトロニウムの温度測定のための光源構築が最後の課題として残っている。陽電子施設のビームタイムに合わせながら、年度前半の期間にこれらの課題解決を進め、集中的にレーザー冷却の実証実験を行う計画である。また、進捗に応じてすぐに重要な遷移周波数の測定を実施できるよう、可搬フェムト秒光周波数コムによる光周波数測定の簡素化および安定化をさらに推進する。
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