研究課題/領域番号 |
17H06209
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平方 寛之 京都大学, 工学研究科, 教授 (40362454)
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研究分担者 |
近藤 俊之 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70735042)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 材料力学 / 応力誘起化学反応 / ナノ薄膜 |
研究実績の概要 |
本研究では,ナノ多層構造に作用する垂直応力とせん断応力の比(混合モード比)を精密に制御できるその場観察負荷実験方法を開発して,化学反応に及ぼすナノ構造と応力場の役割を体系的に解明することにより,応力誘起化学反応の微視的機構と支配力学を解明することを目的としている.本年度の研究実績を以下に要約する. (1) 負荷試験システムの確立と圧縮負荷実験:平成29年度に開発・導入した実験装置を整備・調整して,試験システムを完成させた.また,基板上に製膜したTi/Siナノ多層薄膜から集束イオンビームを用いてマイクロサイズの試験片を加工して,電界放射型走査型電子顕微鏡(二次電子像)その場観察下での積層方向に対する単純圧縮負荷実験を実施した.これにより多層ナノ構造の圧縮負荷による化学反応メカニズムを検討した. (2) ナノ多層構造の化学反応開始評価:化学反応開始を明確に評価するため,変形を加えた試験片に対する透過型電子顕微鏡電子回折法による評価手法を確立した.圧縮負荷試験後の試験片をArイオンミリングにより薄片化して,制限視野回折法により結晶構造の変化を解析して,負荷によって生じる化合物を評価した.その結果,Ti5Si4またはTiSiと推定できる新しい結晶構造が生成することを明らかにした. (3) 負荷モード依存性の解明:積層方向に対する単純圧縮負荷に加えて,多層構造に対して界面をまたいだせん断変形を生じさせるせん断負荷試験方法を考案した.有限要素法によって,試験片形状の最適化をはかり,単純せん断に近い変形モードの負荷実験を実現した.実験結果を基に,化学反応開始に及ぼす負荷モード依存性を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画していたとおり,負荷実験システムを完成させるとともに,積層方向に対する圧縮負荷による化学反応実験を実施した.透過型電子顕微鏡および電子回折による結晶構造解析により,圧縮負荷による化学反応メカニズムを検討した.その結果,Ti/Siナノ多層構造への圧縮負荷によりナノ多層薄膜の面内方向に引張変形が生じて新生界面が生成することにより化合物が生成する化学反応メカニズムを明らかにした.この結果は,局所的な力学負荷により化学反応を制御できる可能性を示した.さらに,負荷モード依存性を解明するためのせん断負荷試験方法を開発した.
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今後の研究の推進方策 |
(1) ナノ多層構造の化学反応実験:今年度までに確立した実験方法を発展させて,透過型電子顕微鏡観察その場観察下での負荷実験方法を完成させる.とくに,力学負荷を与えた試験片に対して微小領域(ナノビーム)電子回折法を用いてナノスケールの局所領域における結晶構造変化の評価を試みる.Ti/Siナノ多層構造を対象として,基板上に製膜したナノ多層薄膜から集束イオンビームを用いて透過像が観察可能なサブミクロン厚さの試験片を加工する.化学反応に及ぼす変形モード依存性を解明するため,積層方向に対する圧縮変形に加えて,開発したせん断試験方法によりせん断負荷試験を実施して,基礎データの拡充を図る.
(2) 化学反応に及ぼす変形モード依存性の解明:これまでに開発した,積層方向に対する純圧縮試験,せん断試験に加えて,圧縮とせん断の混合モード試験方法を開発して,局所変形モードと化学反応の関係を解明する.とくに,透過型電子顕微鏡その場観察実験とナノビーム電子回折の利点を活かして,各変形モードにおける変形誘起化学反応の微視的メカニズムと局所力学場の役割を解明する.さらに,単調増大荷重のみならず繰返し負荷による化学反応メカニズムを解明するため,繰返し負荷実験方法を開発して評価実験を行う.
(3) 成果統合:得られた成果を総合的に議論・検討して,化学反応を支配する普遍性のある力学法則を検討する.さらに本研究の発展・深化について具体的に展望する.
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