研究課題
カキを養殖している内湾の河口から沖に向かった縦断方向に位置する5地点において海水200~560Lに含まれる植物および動物プランクトン試料を採取用ネット(目合0.1mmおよび目合0.072mm)をそれぞれ用いて採取した。また,5地点のうち1地点では,養殖カキも同じ日に採取した。調査は2018年11月6日、12月20日、2019年2月4日にそれぞれ行った。プランクトン採取時のばらつきを評価するため,各地点において濃縮試料(約40mL)のレプリケートを3~4本採取した。採取したプランクトン試料は顕微鏡下で,動物,植物プランクトンに形態学的にソーティングした。カキ試料からは中腸線を取り出し,湿重量を計量したのちに,定量PCRによるノロウイルスの検出および定量,そしてDNAメタバーコーディングによるカキの食性解析のために冷凍保存した。形態学的ソーティングの結果,採取用ネットの目合(0.1mmおよび0.072mm)の違いに依らず,動植物プランクトンが混在した形で採取されていることが確認された。ただし,割合としては,0.072mm目合ネットの方が植物プランクトンの個体数の割合が全体的に高まっていた。リアルタイムPCRによるノロウイルスの検出の結果,一部サンプルからノロウイルスが検出された。サンプル中の動物および植物プランクトンの個体数を形態学的に定量した結果,動物プランクトンの個体数の割合が高い地点のサンプルほど,ノロウイルス濃度が低下している相関関係が観察された。また,カキ中腸線のDNAメタバーコーディング解析を行い,カキが動物および植物プランクトンの双方を捕食していることも確認された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は「ノロウイルスがなぜカキに蓄積するのか?」その謎に挑戦し、それを解き明かすことにある。平成30年度に行ったカキ養殖海域における調査では,動物プランクトンの比率が高いプランクトン群集サンプルほどノロウイルス濃度が低下している現象を確認できた。また,カキ中腸線のDNAメタバーコーディングにより食性解析により,種レベルでカキの餌となっているプランクトン種を同定できる見通しを付けた。このことから,海洋中の食物連鎖におけるカキへのノロウイルス蓄積する生態学的機構を理解するための実施計画に沿って,おおむね順調に研究を遂行することができたと言える。
本研究では、ノロウイルスの海域での戦略について以下に示す2つの仮説を立てた。仮説(1):ノロウイルスはシルトなどの無機質に吸着・浮遊し、海域の厳しい環境から自身を守り、カキの食餌行動の際に自然に体内に取り込まれ蓄積する。仮説(2):ノロウイルスは始めに海域の植物プランクトン表面に存在する多糖などの有機質に吸着し、その後、動物プランクトンに摂取されるのをじっと待ち、最終的にカキがその動物プランクトンを摂取することで蓄積する。この2つの仮説を検証するために、今後ノロウイルスがカキに蓄積するまでのプロセスを科学的に明らかにするための分析を行う予定である。まず,引き続きカキを養殖している湾内の複数地点において動植物プランクトンとカキを採取する。動物プランクトンと植物プランクトンを顕微鏡下の形態観察に基づいてソーティングし,それぞれからノロウイルス遺伝子の検出および定量を目指す。カキサンプルから中腸線を取り出し,ノロウイルス遺伝子を検出および定量をする。植物プランクトン→動物プランクトン→カキの食物連鎖が進むに伴うノロウイルス濃度の変化から,ノロウイルスが海洋中食物連鎖を通じた生物濃縮をしているのかを検証する。また,環境中から採取したプランクトン試料およびカキ中腸線試料からDNAをそれぞれ抽出し,次世代シークエンシング解析を使ったメタバーコーディング解析により海中およびカキ中腸線内の動植物プランクトン種を同定する。それぞれの群集構造(種リスト)の比較から,カキの食性解析を行い,カキの食餌プランクトンに対する好選性を明らかにする。そして,好選性がノロウイルスの生物濃縮パターンに及ぼしている影響を考察する。
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Applied and Environmental Microbiology
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Scientific Reports
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