研究課題/領域番号 |
17H06226
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中嶋 敦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30217715)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ナノクラスター / 超原子 / 薄膜 / マグネトロンスパッタリング / 表面光電子分光 / 顕微光電子分光 / 金属内包シリコン / 熱電変換特性 |
研究実績の概要 |
本研究ではマグネトロンスパッタリング技術の高度化によって原子が数千個程度集合したナノクラスタービームを強度化させて、原子数を精密に制御したナノクラスターを大量に生成できることを基盤として、新たな熱電変換材料の創製を目指している。その対象として、気相で予め集合構造化させた金属内包シリコンケージナノクラスターM@Si16 などのケージ状ナノクラスターを単位とする物質創製に取り組み、均一組成かつ急峻界面のケージ状ナノクラスター薄膜を構築することによって、n型、p型の薄膜を作り分けつつ、高い熱電変換機能を有する複合薄膜の創出を進めている。 今年度は、高い対称性の幾何構造と閉殻電子構造の2つの安定化を同時に満たすM@Si16 について、そのソフトランディング法によって形成させたナノクラスター薄膜の電子物性を、X線光電子分光法、紫外光電子分光法を用いて評価した。タンタルを中心金属原子とするTa@Si16は電子供与性に基づくケージ状ナノクラスターであり、1 nA以上のイオン電流量を得られるビーム技術を構築した。また、Ta@Si16は電子閉殻から1電子余剰であるため、そのナノクラスター薄膜はn型であり、500 K程度まで加熱してもケージ体が崩壊せず、高い熱的安定性を有することをX線光電子分光法によって明らかにした。ナノクラスター薄膜内の電子の振る舞いを観測するために、C60をモデル分子とする有機薄膜に対する顕微光電子分光法の構築を進めた。また、電荷キャリアダイナミクスとして観測するために、直線ステージを導入して50ピコ秒を越える時間分解2光子光電子分光法を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マグネトロンスパッタリング技術のパルス化、ならびにターゲット材料組成の最適化によって、目的とするナノクラスターの生成手段の高度化によって、1 nA以上のイオン電流量を得られるビーム技術を構築してきた。この生成法の高度化によってTa@Si16の単層のナノクラスター薄膜が1時間以内に創製できる基盤技術を構築した。X線光電子分光法、紫外光電子分光法、ならびに顕微光電子分光などの各種の表面光電子分光の手法を整備し、時間分解2光子光電子分光法の遅延時間の拡張も達成した。
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今後の研究の推進方策 |
パルス化したマグネトロンスパッタリング技術によって、タンタル元素以外のM@Si16のナノクラスタービームを生成させ、電子余剰でn型の電子物性を呈するナノクラスター薄膜について同族金属原子の置換によってその多様化を図る。さらに、電子欠損でp型の電子物性を呈するナノクラスター薄膜の生成法の構築にも着手して、n型とp型とをヘテロ接合したナノクラスター薄膜を進める。その上で、これらのナノクラスター薄膜の化学的安定性と電子物性を各種の表面電子分光によって明らかにする。
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