研究課題/領域番号 |
17H06235
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井川 和宣 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (80401529)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 有機ケイ素化学 / キラルケイ素分子 / 不斉合成 / 生物活性 |
研究実績の概要 |
H30年度の研究では生物活性を有するキラルケイ素分子の不斉合成を指向して,生物活性天然物に広く見受けられるキラルテトラヒドロピランやキラルヒドロキシ酸などの不斉炭素を不斉ケイ素に置き換えた分子の合成について検討した.また,キラルケイ素ラジカル種の立体選択的な調製とその反応について検討した. 1)環拡大型1,2-Brook転位によるキラルシラテトラヒドロピランの立体選択的合成 先に不斉合成に成功している2-ヒドロキシシラシクロペンタン類に対して塩基を作用させることで生じる金属アルコキシドの1,2-Brook転位について検討した.種々の強塩基を用いて反応を行なった結果,塩基の対カチオンとしてリチウムを選択することでテトラヒドロピラン骨格を有するキラルケイ素分子を立体特異的に得ることに成功した. 2)シラノール誘導体の求核置換反応によるキラルシラヒドロキシ酸の合成 ケイ素不斉を有するキラルヒドロキシ酸の合成を目的として脱離基を有するシラノールとアシルアニオン等価体の求核置換反応について検討した.その結果,ビニルエーテルから調製したアニオン種を求核剤として用いる反応を鍵反応として用いることで,光学活性シラノールから立体特異的にキラルヒドロキシ酸を合成することに成功した. 3)キラルケイ素ラジカルの調製とその立体制御 キラルケイ素分子の基礎化学と全く新しい不斉合成法の開発を目的として,キラルケイ素ラジカルの反応性を活用した立体選択的ケイ素-炭素結合性性反応の開発について検討した.その結果,ある種のヒドロシラン類から生じるシリルラジカルとアルケン類の付加反応が効率的に進行することを見出した.しかしながら,その立体化学制御は達成していない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの検討の結果,多様なキラルケイ素分子を不斉合成することに成功し,その精密合成化学の基礎を確立した.また,それらの合成手法を応用することで新たな生理活性キラルケイ素分子を見出し,その研究意義を明確にした.これらの成果は,本研究が目指すキラルケイ素テクノロジーの核心であり,当初の予想を上回っている.一方,ケイ素カチオンやケイ素ラジカルの立体化学制御などのごく基礎的かつ挑戦的な研究領域の開拓には至っていないことから,更なる検討が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成したキラルシラシクロペンタン類やキラルシラヒドロピラン,キラルシラヒドロキシ酸を合成素子として活用することで,重要キラル天然物の不斉炭素を不斉ケイ素に置き換えた擬似キラル天然物の不斉合成に展開する計画である.また,キラルケイ素カチオンやキラルケイ素ラジカルの反応について検討を進め,実用的な不斉合成法としての開発を目指す.さらに,これまでに生物活性を明らかにしているシラシクロペンタン類の構造活性相関研究を進めるとともにそれらの動態解析を行い,キラルケイ素分子が生体内でどのような代謝を受けるのかを明らかにする.
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