2019年度の研究では生物活性を有するキラルケイ素分子の不斉合成を指向して,生物活性天然物に広く見受けられるキラルカルボン酸誘導体のケイ素アナログ合成に挑戦し,アルコキシビニルシランのオゾン酸化を鍵とする新手法の開発に成功した.さらに,生物活性キラル化合物の骨格として重要なメチルヒドロインダンの橋頭位キラル炭素をキラルケイ素に置き換えたキラルシラヒドロインダンを新たな合成標的分子として設計し,その不斉合成を達成した. 1)先に我々は,シリルアルケンのオゾン酸化について精査し,それらの多くが付加型酸化を生じてα-シリルペルオキシカルボニル化合物を与えるのに対して,アルコキシ基を有するシリルアルケンの反応は開裂型で進行して,シラカルボン酸エステルを与えることを明らかにしている.本反応は他法では困難なシラカルボン酸エステルの簡便合成法として有用であるが,ケイ素の高い電気陽性のためにエステルからカルボン酸への変換に難があった.今回,シリルアルケンに導入するアルコキシ基としてシロキシ基を選択することで,オゾン酸化で生成したシリルシラカルボン酸エステルの加水分解が速やかに進行して,シラカルボン酸が収率よく得られることを見出した.本手法を応用することで,全く新しい経路でキラルシラカルボン酸を不斉合成することにも成功した. 2)生物活性キラルケイ素分子の開発を指向して,キラルシラヒドロインダン類の不斉合成について検討した.その合成には,光学活性体を潤沢に得ることに成功しているキラルシラシクロペンテノールを不斉合成素子として用いた.検討の結果,閉環メタセシスによる六員環構築に成功し,様々な官能基を有するシス縮環したキラルシラヒドロインダン類の不斉合成を達成した.
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