研究課題
体液中から回収される「エクソソーム分画」は、いろいろな生成経路を経て分泌される、クラスの異なる細胞外小胞のヘテロな集団であり、「エクソソーム診断」や「エクソソーム治療」を実現するためには、この極めてヘテロな微粒子集団を、うまく整理してサブクラス化していく必要がある。本研究ではエクソソームが外部擾乱に反応して、その性質を変化させる能力をもつことを利用し、体液からエクソソームを、「超精密密度分画法」を用いて密度分画し、それぞれの密度分画に含まれるmiRNAとタンパク質を定量化し、その観測値からエクソソームの差分化を進め、同時に、いろいろながんから樹立された細胞株を用い、臓器特異的なエクソソームの擾乱反応の分子機構を明らかにする研究を進めている。平成29年度には、3名の健常人から集めた唾液をソースとして、差分超遠心法により、最終的に160,000 gの沈殿物として回収される「小さな細胞外分泌小胞」に焦点をあてて研究を進めた。この分画は、いわゆる「エクソソーム分画」として取り扱われている分画であるが、実際には極めてヘテロな集団である。この「エクソソーム分画」を、密度勾配遠心法で、その密度の違いにによりさらに細かく分画していくのだが、その解きに、密度勾配メデイィア内を「浮き上がらせる」方向と「沈殿させる」方向の2つの条件でそれぞれのサンプルを分離する。また、超遠心時間も通常の18時間から96時間へと大幅に延長し、メディア中を移動しにく粒子についても、可能な限り平衡位置に達するように工夫をした。各分画に含まれるタンパク質種を同定し、両方向で最終的に密度が一致するもののみにウインドウを絞り解析し、実験条件を擾乱とした最終密度の個人差が観察されることを発見した。この個人差を利用する事で、エクソソーム内包物をクラス分けする作業を進めている。
2: おおむね順調に進展している
3検体を「浮き上がらせる」方向と「沈殿させる」方向の2つの条件で10の分画に分けると、3X2X10の60サンプルとなり、それぞれの分画のプロテオーム解析からは、莫大な数の情報が集まることになる。これを整理していくためには、手作業ではとても対応できず、独自の整理プログラムや、パターン識別する方法を考える必要があったが、専門家の協力を得ながら目的を果たすことができた。概ね順調に進行している。いろいろながんから樹立された細胞株を用い、その擾乱に対する反応性の研究においては、差分遠心法における「洗浄」の回数が大きく結果を変えることを発見した。エクソソームの調製に関しては、「遠心のg」「遠心機のk因子」「遠心時間」「チューブ」などなど、いろいろな条件が影響を与えることが知られているが、この洗浄の影響は劇的な変化をもたらすことが分かった。これもある意味、擾乱による影響と考え、今後の展開に利用していきたいと考えている。
平成29年度の研究では、「超精密密度分画法」で密度により精密分離したエクソソームの、個人間での「ドリフト」を利用して、エクソソームのサブクラスの同定ができそうなことを明らかにした。平成30年度は、引き続き、このエクソソームのサブクラスに属するタンパク質の、パスウェイ解析を通じて、同定されたサブクラスが、エクソソームのどの生成経路を反映していると考えるのが妥当かを調べていく。このため、公共データベースのプロテオーム解析情報システムなどを利用しながら、関連タンパク質の整理を進めていく。さらに、このサブクラスの形態を観察し、その特徴を明らかにしていく。昨今、エクソソームなどの小さな細胞外分泌小胞に加えて、より大きな小胞(マイクロ小胞など)にも焦点をあてるべきとの、エクソソーム研究に対する見直しが進みつつある。これらの状況変化を勘案し、上記サブクラスエクソソームに属するタンパク質が、より大きな細胞外分泌小胞を含めた「広域EVs」にどのような分布をしているのかについても、今年度明らかにしていく予定である。また、唾液は血漿や尿と違い、多くの口腔内微生物由来の分子を含むことも特徴とする。これら口腔内細菌叢由来の微粒子が、唾液エクソソーム解析に与える影響も慎重に調べていく予定で、今年度は、主に、微生物由来の核酸を指標として、「広域EVs」での分布を調べていく。また、通常の方法で精製したエクソソームに、バッファーの種類やイオン強度などの外部擾乱を与えることで、その大きさに変化を与えることができることが分かっているが、より大きな大きさの変化をもたらす外部擾乱条件を探索していく。特に、昨今「内部にではなく、外部に積荷を運んだエクソソーム」への注目が集まっており、これらが「洗浄」という簡単な操作で差分化できる可能性を追究していく。
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