体液にはいろいろな臓器、あるいは細胞から放出される細胞外小胞(EV)が含まれる。細胞外小胞を放出する経路は複数あり、また、その大きさも直径数十nmのものから、数ミクロンのものまで、ダイナミックレンジの広い範囲で存在している。すなわち、細胞外小胞は極めて多様性に富む集団で、どういった基準でいくつのサブクラスにわけるべきなのか、また、そのようなサブクラスがどういった放出機構を反映しているのかについては、まだほとんど分かっていないのが現状である。これまでの細胞外小胞の研究は、後期エンドソーム経由で放出される、小さな細胞外小胞、すなわちエクソソームにのみ焦点があてられて進められてきたが、現在では、後期エンドソーム経由以外にも、細胞膜の出芽、細胞突起からの脱離、制御された細胞死からの放出など、いろいろな経路でいろいろな細胞外小胞が放出されていることが明らかとなってきており、この多様な細胞外小胞を、いかに整理していくかが、解決すべき課題となっている。
本研究では、ヒトの体液が含む細胞外小胞を、その密度変化の感受性(密度そのものではなく、環境擾乱にあわせて、その密度を変化させる能力)を指標に、新たに細胞外小胞を分類(差分化)する手法を開発した。具体的には、僅かな細胞外小胞の密度の差を感知できる生化学的な分離方法を確立し、これによりサブクラス化された細胞外小胞分画が含むタンパク質をプロテオーム解析した。その結果、密度変化の感受性により、少なくとも2つの細胞外小胞のサブクラスが明らかとなり、含まれるタンパク質マーカーの違いから放出経路を類推することも可能となった。また、本手法では、これまでの密度勾配超遠心分離法では十分に排除できていなかった「見かけ上」の細胞外小胞マーカーを区別することもでき、より正確な細胞外小胞を用いた診断法の確立への道をひらくことができた。
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