近年、透明化技術によって比較的大きな試料の3次元蛍光画像を取得することは容易になってきているが、一細胞レベルの解像度で神経回路構造を捉えるには課題が多い。高解像神経回路トレーシングを実現するには、少数(ないし一細胞)の神経細胞を標識する、もしくは多数の神経細胞をできるだけ異なる色で標識できればよい。そこで、本研究では、局所遺伝学操作のツール開発および多色神経細胞標識技術の開発に取り組んだ。 後者に関しては、従来、神経細胞を多色標識する方法としては、Cre-loxPを活用して3種類の蛍光タンパク質を確率的に発現させる方法、Brainbowが良く知られている。しかしながら、この従来法は蛍光輝度が不十分であり、特に細かい神経突起の構造を長距離に亘って可視化することは困難であった。そこで、本研究ではplasmidやAAVなどのベクターを用いて、しかも高輝度で多色標識を行うための方法の開発を行った。まず、ベクターのコピー数について、ポアソン分布に基づくシミュレーションを行い、最適化を行った。更に、Tet-Offシステムを組み合わせることで、発現量の最大化を実現した。さらに、AAVへの実装を行った。これらを用いることで、嗅球や大脳皮質、海馬等で高輝度多色標識を実現した。更に、こうしたデータについての定量的評価方法を確立し、従来法との比較を行った。これらの結果については投稿論文にまとめ、eLife誌に発表した。今後は、この方法を用いて嗅球の特定の細胞種の定量的コネクトーム解析を行い、別の研究として行っている嗅球の匂い情報処理に関する数理モデルのための実験データを得る予定である。
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