近年、透明化技術によって比較的大きな試料の3次元蛍光画像を取得することは容易になってきているが、一細胞レベルの解像度で神経回路構造を捉えるには課題が多い。高解像神経回路トレーシングを実現するには、少数(ないし一細胞)の神経細胞を標識する、もしくは多数の神経細胞をできるだけ異なる色で標識できればよい。そこで、本研究では、局所遺伝学操作のツール開発および多色神経細胞標識技術の開発に取り組んだ。 前者については、これまでに脳の局所を遺伝学的に標識する方法として、子宮内エレクトロポレーション法やアデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターが用いられているが、空間解像度が低いという課題があった。一細胞にエレクトロポレーションを行う方法も知られているが、手技的な困難さが課題であった。そこで、プラスミドDNA(約3000kDa)よりもはるかに分子量の小さなリコンビナントCreタンパク質(38kDa)を用いることで局所的遺伝学操作をする為の方法の開発に取り組んだ。Cre濃度や電流値などの詳細な条件検討を行い、CreレポーターマウスAi9を用いることで、脳の局所(100um程度)に限局した遺伝学的操作を実現した。ガラス電極を用いて簡単な電流装置を用いることで遺伝学操作が可能であり、極めて有用なツールとなりうる。実際にこの方法を用いて、マウス嗅球の単一の糸球体につながっている神経細胞群の遺伝学的操作および可視化に成功した。今後はこの手法の更なる改良を行うとともに、光遺伝学ツールなどを用いた応用に取り組む。
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