現在、神経細胞標識を行う場合にはトランスジェニック動物を用いるかアデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターで蛍光タンパク質を導入するというのが主流である。しかしながら、いずれの手法も標識の解像度が良くなく、まだ機能回路レベル、一細胞レベルの解像度で標識、トレースできる状況にはない。また、こうした技術の進歩によって、取得した画像からどのようにして神経突起を認識し、回路のトレースをするかという点が次なる大きな課題となっている。現在でも画像データから神経回路をトレースするアルゴリズムやソフトは存在するものの、まだ信頼性が低く、かなり手作業にゆだねられる部分が大きい。 そこで、本研究においては、ポスト透明化の神経回路解析における次の課題の克服を目指す。すなわち、1) 回路機能と関連づけられた任意の神経細胞を標識する手法、および2) 高密度超多色標識の手法を開発し、1細胞の解像度での神経回路解析を目指す。さらに3) 超多色標識標本から自動的に神経回路形態の抽出を行うための全く新しいアルゴリズムの開発をめざした。 本年度は、(1)については嗅球における局所回路標識を実現した。(2)については、高輝度の蛍光タンパク質の選抜が完了し、7種類の蛍光タンパク質を用いてマウスの神経細胞を高輝度標識することに成功した。AAVベクターに実装し、神経細胞にランダムに導入することで、個々の神経細胞をユニークな色の組み合わせで標識することが出来た。細胞体や樹状突起のみならず、軸索までに高輝度標識出来ることを確かめた。 更に、7色で標識された神経細胞から色情報を抽出し、新規に開発した機械学習アルゴリズムを用いて、個々の神経細胞の突起を抽出できることを確かめた。これによって、神経細胞の配線を自動解析する道が開かれた。これは次世代型のコネクトームツールとしての利用が期待される。
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