研究課題/領域番号 |
17H06264
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
千田 俊哉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (30272868)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 発現制御 / ゲノム / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
真核細胞生物の細胞機能は、ゲノムDNAに書き込まれた情報だけでなく、ヒストンタンパク質の翻訳後修飾パターンなどのエピジェネティック情報によって規定されている。しかし細胞が分裂する際、ゲノムDNAは複製反応によって倍加するが、ヒストンは倍加しないため、新生ヒストンがゲノムDNA上に取り込まれる。新旧ヒストンの翻訳後修飾パターンは異なるため、細胞機能維持には新旧ヒストンの翻訳後修飾パターンを揃える分子機構が必要だが、CAF-I複合体はこの分子機構において中心的役割を果たす。本研究では、(A) 複製反応経由の細胞機能のリセットを目指したCAF-I複合体の結晶構造解析を第一の目的とする。さらに、(B) CAF-I複合体を含む超分子複合体の結晶構造解析を通してCAF-Iの機能表面を明らかにし、細胞機能をリセットするCAF-I変異体やCAF-I機能阻害剤の作製を目的とする。
平成29年度は、目的として挙げた(A)の中で、特にCAF-I複合体の精製に集中して研究を実施した。これまでに、培養スケールの拡大、精製に用いるレジンの検討、濃縮時の回収率向上の検討などを系統的に進めることで、CAF-I複合体の大量精製法を確立してきた。平成29年度は、既に確立した方法で繰り返して精製を行い、結晶化スクリーニングを行った。現状では320リットル培養菌体から約2mg/mL x 50μL・純度約90%の精製標品が得られている。当研究室が開発した全自動微量結晶化ロボットを使用すれば、約10μLで96条件の結晶化スクリーニングを行うことが可能で、既にいくつかの条件でCAF-Iの結晶(約1μm程度)が得られている。同時に、クライオ電子顕微鏡単粒子解析に適した精製方法もほぼ確立しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで、CAF-Iの結晶化に適した大量精製法の確立だけでなく、クライオ電子顕微鏡単粒子解析に適した精製法もほぼ確立しつつある。今年度より、申請者の所属機関にクライオ電顕(Talos Arctica)が導入されたことから、今後、サンプルの精製とクライオ電顕による品質確認というサイクルが早まることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、CAF-Iのクライオ電子顕微鏡単 粒子解析に焦点をあてて、以下2点の研究を遂行する。 第一に、大阪大学・藤井高志助教と大阪大学・難波啓一教授の研究室との共同研究により、すでにCAF-I複合体のクライオイメージを取得しているので、この画像に対するデータ解析を継続して行う。なお、クライオイメージにおいて、CAF-Iに対応する170kDaよりも明らかに小さな粒子が見られるので、凍結時にサブユニットが解離している可能性がある。これまで、精製後のサンプルを架橋してクライオイメージを撮影してきたが、さらに、架橋後にゲル濾過精製して、サンプルの均一度を上げてクライオイメージを撮影することを試みる。 第二に、昨年度末より、研究代表者が所属する高エネ機構に新しいクライオ電子顕微鏡(FEI社・Talos Arctica)が導入されたので、今年度前半はKEKのクライオ電顕の立ち上げも行う。KEKのクライオ電顕の立ち上げが順調に進めば、サンプルの精製とクライオグリッドの品質確認というサイクルを早めることができると期待される。
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