従来のがんに対する治療は、手術や化学療法、放射線治療が主流となっている中で、特に化学療法で用いる 抗がん剤の大部分は、分裂する正常細胞の増殖も阻害するため、重篤な副作用が問題となっている。克服すべき最大のポイントは、如何にがん細胞へ特異的に作用させるかという点であり、ドラッグデリバリーなどによって、その特異性を増強させるなどの工夫は試みられているが、課題は多く残されている。核酸による自然免疫応答活性化が抗がん作用を示すと明らかとなっている背景の中、これまで自然免疫系における、核酸認識センサー及びそのシグナルに関する研究を推進させてきた。その流れの中で、今回、細胞質RNAセンサーであるRIG-Iを介する、全く新しい経路を見出した。この経路は、これまで報告されていたMAVSアダプター分子を介するサイトカイン応答などを誘導する基本経路とは異なり、がん細胞選択的に細胞死を引き起こすものであることがわかった。特記すべきは、正常細胞では細胞死が誘導されない。さらに、我々が作成したRIG-Iの合成リガンドである3pRNAはvivoレベルでのがん治療の効果をもたらした。興味深いことに、この正常細胞とがん細胞の応答性の違いは、RIG-Iと新規に結合するある特定のリン酸化酵素分子の細胞内における局在の違いであることもわかった。その酵素のNuclear export signal(NES)を欠損したがん細胞株を作成したところ、3pRNAによる細胞死が抑制された。以上の結果から、RIG-Iの下流で新たなシグナル経路を見出し、さらには従来の分子の発現や活性の違いではなく、「細胞内分子局在制御」という新たな局面に着目することががんのターゲッティングとして有効であるという新しい視点をがん治療の戦略として提示できることも期待される。
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