研究課題
慢性腎臓病(CKD)は患者数1300万人をこえる国民病であり、いったん悪化した腎機能が自然に回復することはないため、CKD進展を抑制する医療の開発が求められている。高血圧, 糖尿病などの原疾患を背景として生じる腎臓の有機体代謝の変容は、活性酸素種の生成やアポトーシスの促進を介してCKD進展に大きな役割を果たす。そこで本研究では、腎臓マスイメージングを用いて、エネルギー代謝中心経路の代謝産物を可視化し、CKD進展の原因となる腎代謝変容の実体解明を目指した。我々は、組織内の低分子量代謝産物を可視化する新しい研究手法である、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法によるマスイメージング(MALDI-IMS)を用いて、腎内に分布するエネルギー代謝中心経路の代謝産物(メタボライト)を可視化し、腎臓における主要な生理活性物質であるアデノシンが、腎皮髄境界特異的に集積することを発見した。アデノシンは濃度依存性に腎細動脈の収縮・拡張を制御するが、腎機能維持における意義は十分知られていない。そこでマウスを用いて脱血による急性腎前性腎不全モデルを作成し、アデノシンの虚血腎における意義を検討した。眼窩底からの600µl脱血後、レーザー血流計にて腎血流、ウエスタンブロット法にて血管緊張度の指標となるミオシン軽鎖リン酸化を評価した。脱血にて、血圧と腎血流はおよそ60%低下し、腎臓全体でのミオシン軽鎖リン酸化は30%減弱した。すなわち、脱血に伴う還流低下に応じて、腎内の血管は拡張すると考えられた。低親和性受容体であるアデノシンA2受容体阻害薬の投与後に脱血を行うと、ミオシン軽鎖リン酸化の減弱を認めず腎血流の低下が顕著となった。同様の変化は高親和性受容体であるA1受容体阻害薬投与では認めなかった。これらの結果より、アデノシンはA2受容体を介して腎血管を拡張し、脱血時の腎血流維持に関与すると示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまでにない研究手法を用いて腎臓内の代謝産物の分布を明らかにし、これまで未知の生理的意義を見出した。
アデニル酸やニコチン酸の代謝産物を介して営まれるエネルギー代謝への介入がCKD進展を抑制するとの仮説のもと、アデニル酸の再合成経路を活性化するキサンチンオキシダーゼ阻害薬や大規模臨床試験にて腎保護効果が報告されたSGLT2阻害薬が腎エネルギー代謝に与える影響と、その腎保護メカニズムについて検討する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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