研究実績の概要 |
生体各臓器の機能は、単一臓器のみで制御されるのではなく、全身諸臓器が液性因子や神経性因子をメディエーターとして情報を共有し、相互に連関することで、生理的に適切な機能が発揮される。旧来から内分泌因子が臓器連関に重要な役割を果たすことが知られていたが、最近になり、細胞の代謝中間産物が周囲に放出され、全身で作用を発揮して臓器機能に影響を及ぼし得ることが注目されている。最近の報告では、母体と胎児の間の母児連関において、胎盤を介した代謝産物の送達が、相互連関のメディエーターとして重要であることが示されている。我々を含む研究グループは、母体の腸内細菌叢が胎児の発達と出生後の産仔の疾患感受性に与える影響を検討する目的で、無菌環境下で飼育した妊娠マウスの産仔の体重・耐糖能等を観察した。妊娠マウスを通常環境下および無菌環境下で飼育し、分娩後は成長環境を等しくするために、両群の産仔を通常環境下の仮親で成育させた。離乳後、高脂肪食を摂取させたところ、無菌マウスの産仔は成長に伴って重度の肥満となり、高血糖・脂質異常症などメタボリックシンドロームの徴候を示した。解析の結果、無菌マウスの産仔では交感神経系の発達が十分ではなく、このことが体重増加の一因と考えられた。また、腸内細菌叢が産生するプロピオン酸などの短鎖脂肪酸が、胎児の交感神経系ならびに臓器の発達に重要であることが見いだされた (Science. 367(6481), 2020)。
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