研究課題/領域番号 |
17H06274
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北野 健太郎 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70647073)
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研究分担者 |
長山 和弘 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00647935)
似鳥 純一 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40424486) [辞退]
安樂 真樹 東京大学, 医学部附属病院, 特定研究員 (70598557)
垣見 和宏 東京大学, 医学部附属病院, 特任教授 (80273358)
中島 淳 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90188954)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 肺再生 / 再生医療 / 大動物モデル / 脱細胞化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ミニブタモデルにおいて自己細胞をもとに再生肺を構築し生体内で長期間ガス交換能を維持できるか検証を行うことである。再生肺の構築のために我々は脱細胞化技術を用いた。本研究の達成のために我々は次の4つの事項を成し遂げる必要があった。1つ目は肺の脱細胞化を実現させることである。2つ目はブタの自己細胞を分離培養することである。3つ目は脱細胞化された肺スキャフォールドに、自己細胞由来の細胞を配置することである。4つ目は構築された再生肺を適切に移植させることである。 1つ目の事項である肺の脱細胞化は既報の方法を用いて施行した。脱細胞化処理された肺の組織染色やDNA定量を通じて、適切な脱細胞化が行われていることが確かめられた。2つ目の事項であるレシピエント自己細胞の分離培養であるが、これはブタの切除肺から酵素法ならびに抗体を用いた方法で気道上皮系であるKRT5+p63+細胞と、血管内皮系であるCD31+細胞を分離培養させた。それぞれの系統の細胞を培養増殖させた後に免疫染色ならびにフローサイトメトリーを行い、適切に特徴化され、目標とした細胞群が得られたことを確認した。3つ目の事項である、脱細胞化された肺への自己細胞由来の細胞の配置は、既報に則った方法で施行した。構築された肺組織の染色を行い、脱細胞化され細胞が全く見られなかった肺組織に、自己細胞が配置されていることを確認した。4つ目の事項である、再生肺の移植であるが、我々は現在までに2件施行した。超急性期におけるガス交換能について、同種他家肺移植をコントロール群として検証した。結果は学会、誌上報告で公表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における課題はおおまかには施行されつつあるが、依然として次の2つが課題として残る。細胞に関する課題と肺移植後長期生存に関する課題である。 1つ目の課題は、適切な細胞を適切な数まで短期間に増殖させることである。現状では当初目標としていた10の9乗個の細胞を1-2週間の培養期間で得ることは達成できていない。現時点ではブタ肺組織を分離培養し、2-3週間の培養で気道上皮基底細胞・血管内皮細胞ともに10の5乗から6乗個程度まで感染することなく増殖することを確認した。培養方法はともにラットやヒトで報告されている手法を踏襲したものである。また、現時点では我々が分離培養した細胞群が再生において適切な細胞であったかが示されていない。適切な細胞群の選択を検討する必要がある。 2つ目の課題は、再生肺の生体内における機能の長期間の観察である。現状では超急性期のみでしか観察していない。当初は全身麻酔下での呼吸循環管理の未熟により肺移植手術そのものが不安定であった。現在は、検討を重ねたことで全身麻酔下での管理は進歩し、超急性期での肺移植は実行できている。しかしながら手術手技については術中出血量が多く手術時間も長いため、長期生存が可能であるか不明である。また動脈ラインや静脈ラインの確保といった周術期管理に必要な技術も不安定であり、技術向上が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で浮き彫りとなった2つの課題についてそれぞれ克服方法を下記で述べる。 1つ目の課題である細胞については、短期間での増殖を目指すこと、そして適切な細胞群であるかの2点を検討・検証する必要がある。短期間での細胞増殖について、我々が分離培養した気道上皮基底細胞(TP63+KRT5+)はブタ肺においては約1mm程度の比較的太い細気管支周囲に発現していることから、ブタ肺末梢組織でなく細気管支から経気管支的に組織を採取することで、より効果的に大量の細胞を確保できる可能性があると考える。また、血管内皮細胞については肺以外の臓器や組織からの採取により効果的に回収でき、短期間での増殖ができる可能性があり、引き続き検討を行う。適切な細胞群の選択については、我々が分離培養したレシピエント由来の自家細胞をもとに構築した再生肺の移植を行い生体内の機能を確認することで、細胞の検証を実行できると考える。 2つ目の課題である長期生存については、術中出血量の軽減と手術時間の短縮が必須である。手術手技の向上だけでなく、手術器機の改良も進めていく必要がある。さらに長期間の観察のために適切な周術期管理の向上が望まれる。具体的には動脈ラインや静脈ラインの確保といった技術面の向上が必須である。さらに周術期における合併症管理の予測、対応方法、必要薬剤について我々はまだ熟知しておらず、検討を重ねることで周術期の諸問題の解決を目指していきたい。
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