研究課題/領域番号 |
17H06484
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武田 洋平 北海道大学, 医学研究院, 特任助教 (30804447)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 抗腫瘍免疫療法 / Toll-like receptor 3 / アジュバント / 細胞傷害性T細胞 / 樹状細胞 / クロスプレゼンテーション / PD-L1発現 |
研究実績の概要 |
免疫賦活剤であるTLR3アジュバントは、抗腫瘍アジュバントとしての有効性が示されている。しかし、マウスを用いたこれまでの研究により、その治療効果が腫瘍の種類により異なることが示唆されている。そのため本研究では、各腫瘍間のTLR3特異的アジュバントの治療著効性を決定付ける機構の解明を目的とした。 当該年度においてはまず初めに、リンフォーマ、メラノーマ、肺がんといった、種類の異なる3種の腫瘍株 (ただしこれらの株は共通のがん抗原を発現している) をそれぞれマウスに移植し、TLR3アジュバント治療に対する有効性を比較した。更にリンフォーマ株においては、遺伝子修飾により免疫抑制性分子であるPD-L1を高発現させた株についても治療効果を評価した。治療効果は腫瘍体積の推移や死亡率により評価した。その結果、PD-L1を高発現していないリンフォーマ移植モデルでは、腫瘍の退縮が強く誘導され、腫瘍が完全に消失する個体が認められた。PD-L1高発現株においても腫瘍の退縮が認められたが、その程度は弱く完全な消失は認められなかった。また、メラノーマ株においては腫瘍は退縮しなかったものの、増殖抑制効果が認められた。しかし、肺がん株においては有意な抗腫瘍効果は認められなかった。 次にこれら腫瘍細胞の表現型を評価した。その結果、最も治療応答性が強かったリンフォーマ株ではPD-L1発現レベルが低く、細胞傷害性T細胞の標的となる際に必須のMHC class I分子の発現が高かった。一方、メラノーマや肺がん株ではPD-L1発現が高く、MHC class I発現が低かった。また、免疫細胞の誘因に関わるケモカイ遺伝子の発現を評価したところ、メラノーマにおいて高い発現が認められた。 以上の結果より、腫瘍における低PD-L1発現、高MHC class I発現、ケモカイン産生能の有無が治療著効性に影響する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行するにあたり、まずTLR3アジュバント治療に対する応答性が明確に異なる腫瘍株をそれぞれ同定し、その治療モデルを確立する必要があった。そのため複数の種類の腫瘍株をマウスに移植し治療を試みたところ、腫瘍が完全に退縮する腫瘍モデル、腫瘍が退縮しないまでも増殖抑制が認められるモデル、殆ど抗腫瘍効果が認められないモデルを確立することが出来た。これらは複数回の実験により同一の結果が得られており、再現性が高いモデルであった。更にリンフォーマ株においては、腫瘍細胞のPD-L1発現レベルによりTLR3アジュバント治療効果が変わることが示され、PD-L1による免疫抑制機構が治療著効性を決定づける一要因であることを明らかにすることが出来た。 また、PD-L1発現レベル以外にも、MHC class I発現やケモカイン産生レベルも各腫瘍間で異なることが示され、これらも治療著効性に影響を与える要因である可能性が示唆できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究により、各腫瘍細胞におけるPD-L1やMHC class I発現、ケモカイン産生などを評価したが、今後は更に各腫瘍株におけるTLR3発現レベルや、TLR3アジュバントの直接刺激によりこれら表現型や細胞生存率が変化するかを解析する。 また、腫瘍細胞の表現型のみならず、各腫瘍移植マウスに治療を行った際の宿主側の応答も評価する。免疫抑制性分子PD-L1は腫瘍細胞のみならず、宿主の免疫細細胞などにも発現していることが知られている。このため、治療を行った各種移植マウスについて、免疫細胞におけるPD-L1発現レベルを比較する。更に、各腫瘍モデルにおいてTLR3アジュバントに加え、PD-L1阻害療法を併用することで抗腫瘍効果の増強が認められるか否かを評価する。 また、腫瘍内微小環境に浸潤している免疫細胞の数や種類が腫瘍の増殖に影響を与えることが知られている。そのため、フローサイトメータ―を用い、各種腫瘍組織を解析し、浸潤している免疫細胞の数や種類、加えてその表現型などを解析し比較する。 更に、TLR3アジュバント治療後の腫瘍細胞を腫瘍組織から単離し、MHC class Iや腫瘍抗原の発現レベルを解析することで、免疫逃避の起こり易さを比較する。
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