近年、宿主の免疫応答を活性化し腫瘍を退縮させる抗腫瘍免疫療法の有効性が注目されている。しかし抗腫瘍免疫療法に対する応答性は各患者により様々であり、治療が奏功する患者がいる一方、治療が奏功しない患者も数多く存在している。この様な治療奏功性に影響を与えるファクターの一つとして、対象となるがん種の違いが挙げられる。しかし、治療感受性のがん種と治療抵抗性のがん種の性質を決定づける要因は未だ完全には解明されていない。本研究では、異なるがん種間で免疫賦活剤であるTLR3 アジュバントの治療奏功性を決定付ける機構の解明を目指した。リンフォーマ、メラノーマ、肺がんといったTLR3アジュバント療法に対する感受性が異なる3種の腫瘍を移植したマウスを用い、腫瘍細胞上の抗腫瘍免疫に関わる分子等の発現量を評価した。また、腫瘍組織内に浸潤している各種免疫細胞上の免疫抑制性分子PD-L1の発現量も評価した。最も治療応答性が強かったリンフォーマではPD-L1発現レベルが低く、またMHC class I分子の発現が高かった。一方、メラノーマや肺がん株ではPD-L1発現が高く、MHC class I発現が低いことが示された。またメラノーマや肺がん細胞移植マウスではリンフォーマ移植マウスと比較し、腫瘍組織内浸潤免疫細胞におけるPD-L1分子の発現が高い傾向が認められた。更にリンフォーマやメラノーマ移植マウスにTLR3アジュバント治療に加え、抗PD-L1抗体の併用投与を行ったところ抗腫瘍効果が増強した。以上、本研究により、腫瘍細胞上のPD-L1やMHC class I、また腫瘍内浸潤免疫細胞上のPD-L1の発現量がTLR3アジュバント治療に対する治療奏功性に影響する可能性が示唆された。また、TLR3アジュバント療法と抗PD-L1抗体の併用により、多くのがん種に対して抗腫瘍効果を発揮できることを示した。
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