研究課題/領域番号 |
17H06485
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山下 由衣 北海道大学, 農学研究院, 助教 (40803383)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | ショ糖 / 転写因子 / 翻訳 / リボソーム |
研究実績の概要 |
真核生物のmRNAは,モノ・シストロニックであり,一つの遺伝子のみをコードすると考えられていたが,「本体」遺伝子の5’非翻訳領域 (5’UTR) に存在する小さなORF (上流ORF; uORF) が翻訳されることで,下流の本体遺伝子の発現制御に重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。 シロイヌナズナの転写因子であるbZIP11は,細胞内のショ糖に応答して,アミノ酸代謝の調節に関与する。我々はこれまでにbZIP11遺伝子発現のショ糖応答性が,bZIP11遺伝子のuORF2におけるショ糖に応答したリボソームの停滞によってもたらされることを明らかにした。本研究は,bZIP11 mRNAのuORF2におけるショ糖に応答したリボソームの停滞の分子機構を明らかにしようとするものである。 これまでに,ショ糖のセンサーとしてのuORF2の作用機構についての解析行った。uORF2ペプチドは合成された直後にリボソーム出口トンネル内で作用することが期待される。我々がこれまでに作出したリボソームタンパク質RPuL4の変異型リボソームを発現するシロイヌナズナ由来の試験管内翻訳系を用いた解析により,bZIP11についても出口トンネルがリボソームの停滞に重要であることが示唆された。 また,本制御機構におけるショ糖の特異性を評価した結果,ショ糖の関連代謝産物ならびにアナログはbZIP11 uORF2の翻訳停滞を誘導しなかった。よって,bZIP11 uORF2の翻訳停滞はショ糖のセンサーとしての特異性が非常に高いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出口トンネルと新生ペプチドの関与:uORF2ペプチドは合成された直後にリボソーム出口トンネル内で作用することが期待される。出口トンネルの内部には,2つのリボソームタンパク質uL4とuL22の突出によって形成される狭窄部位がある。我々がこれまでに作出したuL4の変異型リボソームを発現するシロイヌナズナ由来の試験管内翻訳系を用いた解析を行った。uL4の狭窄部位に露出している部位に1アミノ酸置換をもつ変異体では,bZIP11のショ糖による翻訳停滞に影響を与えなかった。一方,uL4の2アミノ酸欠損の場合は,リボソームの停滞が弱まった。よって,bZIP11のショ糖に応答した翻訳停滞にはuL4が関与し,特に狭窄部位に露出したアミノ酸の数が重要であることが示唆された。 ショ糖の特異性:これまでにショ糖の関連代謝産物がbZIP11の翻訳停滞に関与しないことを明らかにした。ショ糖のアナログであるパラチノースはリボソームの停滞を誘導しなかった。また,試験管内翻訳系にグルコースとフラクトースを同時に添加してもリボソームの停滞は起こらなかった。よって,bZIP11uORF2の翻訳停滞におけるショ糖の化学的特異性が強く示唆された。 mRNA分解の可能性:リボソームの停滞をきっかけにbZIP11 mRNAが分解される可能性を検証するための実験材料として,bZIP11の5’UTRにレポーター遺伝子をもつトランスジェニックシロイヌナズナの作出を進めている。野生型のbZIP11 5’UTRに加え,リボソームの停滞を起こさない,もしくは強める変異を導入したものの3種類のトランスジェニックシロイヌナズナを作成している。3種を比較することで,リボソームの停滞のbZIP11 mRNAの分解への寄与を評価する。
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今後の研究の推進方策 |
bZIP11 uORF2で起こるショ糖に応答したリボソームの停滞のメカニズムを解明するため,生化学的および遺伝学的解析を行う。 リボソームタンパク質RACK1の関与:ショ糖に応答してシロイヌナズナのリボソームを構成するタンパク質のパラログ種が変化することが示唆されている。このうち,真核生物に特有のリボソームタンパク質であるRACK1のパラログのひとつは,ショ糖に応答してリボソームへの取り込み量が増える。また,出芽酵母のRACK1は,新生ペプチドによるリボソームの停滞と,それに共役したmRNA分解を促進する。そこで,RACK1の欠損株を用いて,uORF2の翻訳を解析する。 mRNA分解の可能性:mRNAは,リボソームの停滞により,mRNA品質管理機構による分解の標的となりうる。したがって,細胞内ではリボソームの停滞をきっかけにしたmRNA分解によって,bZIP11 mRNAの発現がさらに制御されている可能性が高い。そこで,芽生えの液体培養系において,bZIP11 mRNAの半減期を測定する系を立ち上げる。また,bZIP11のホモログ遺伝子や,変異型のbZIP11 uORF2をもつトランスジェニックシロイヌナズナを用いることで,リボソームの停滞のmRNA分解への寄与を検証する。ショ糖に依存して,bZIP11 mRNAの分解が起こる場合は,mRNA品質管理機構のひとつであるNonsense-Mediated mRNA Decayの関与を検証する。
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