真核生物のmRNAの5’非翻訳領域に存在する小さなORF (上流ORF; uORF) が翻訳されることで,下流の本体遺伝子の発現制御に重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。シロイヌナズナの転写因子であるbZIP11は,細胞内のショ糖に応答して,アミノ酸代謝の調節に関与する。我々はこれまでにbZIP11遺伝子発現のショ糖応答性が,bZIP11 mRNAのuORF2におけるショ糖に応答したリボソームの停滞によってもたらされることを明らかにした。本研究は,bZIP11 mRNAのuORF2におけるショ糖に応答したリボソームの停滞の分子機構を明らかにしようとするものである。 bZIP11 mRNAの分解を測定する実験系の立ち上げを行った。液体培地におけるショ糖処理に持ちこむシロイヌナズナの芽生えは,寒天培地に加えるショ糖の濃度を通常より下げて培養した。その後,液体培地でのショ糖処理を24時間までの範囲で検討した。どのタイムポイントにおいてもmRNA分解の中間体がで検出され,mRNA分解解析に適していると判断された。また,変異型のbZIP11 uORF2をもつトランスジェニックシロイヌナズナの作出を終えた。今後は,同トランスジェニックシロイヌナズナを用いて,リボソームの停滞のmRNA分解への寄与を検証する。 ウサギ網状赤血球由来の試験管内翻訳系(Rabbit Reticulocyte Lysate; RRL)においても,bZIP11 uORF2のショ糖に応答した翻訳停滞が起こることが明らかになった。また,RRLにおいても,変異型uORF2の翻訳停滞の効率は,コムギ胚芽およびシロイヌナズナでの解析と相関を示した。このことから,動植物に保存されたリボソームの特徴がショ糖応答に関与すると考えられる。ただし,植物特異的な因子のショ糖応答した翻訳停滞への関与は否定されない。
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