本研究は、高卒で県外就職する地方の若者を対象に移行の経験を質的に調査することで、地域移動を伴う移行のプロセスとその困難を明らかにし、それを踏まえて、高校のキャリア教育や公的機関のキャリア支援の在り方について検討した。調査対象者は、青森県及び沖縄県出身で、3年離職率が高い小売、宿泊・飲食サービス、医療・福祉等に多く就職する普通科及び工業科以外の職業科の卒業生とし、高校の進路指導担当教員及び公的な就労支援機関のスタッフにも補完的な調査を行った。 調査対象の若者には、一度は進学も検討したが、経済的な理由から就職希望となった者が多く含まれていた。彼らの中には、調査時もキャリア転換につながる進学への希望が残り続け、一部はそれを実現していた。県外か県内かの選択においては、沖縄県では、教員の働きかけはなく、保護者が「一度は出る」ことを勧め本人もそれを肯定的にとらえる傾向があったが、青森県では、県内希望者に対しても、地元に仕事が少ないとして、教員が県外とくに卒業生の就職先を強く勧める傾向があった。だが、先輩のいる企業に就職した者も含めて、県外就職者8名のうち7名は、長時間労働など労働条件のきつさや本人または親の病気等により、調査時に初職を離職または離職予定であった。移動先の公的機関の利用はほとんど見られなかった。離職後は地元に戻る者が多かったが、自力で県外定着した者には、土地勘の働く「住みたい街」を優先して仕事を選ぶという共通の傾向が見られた。 地域移動を伴う若者の移行を支えるためには、数年かかる移行の過程を意識した、進学か就職か・県内か県外かという二分法ではない進路指導や、労働関係法や離転職相談に関する知識を含むキャリア教育、居住地の情報や金銭管理等を含むキャリア支援が重要であると考えられる。若者自身の経験を踏まえて、地域の実情にあったキャリア教育を創造することが求められている。
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