研究課題/領域番号 |
17H06502
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
村上 早紀子 弘前大学, 大学院地域社会研究科, 客員研究員 (40803846)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 地域公共交通 / 中山間地域 / 過疎地域 / NPO / コミュニティバス / 有償運送 / コミュニティタクシー |
研究実績の概要 |
地域公共交通は、特に中山間地域や過疎地域において、利用者の減少や事業者の経営悪化により欠如し続ける現状にある。そうした中で住民が組織を設立し、行政や事業者と連携しながら交通を動かす取り組みは、地域モビリティを確保し住生活を支援するといった意味で、新たな可能性として捉えられる。こうした多様な主体の協働により形成される関係を、新たな概念「Co交通」として申請者は提起してきた。しかし運営においては、公的補助金に依存せざるを得ず、サービスおよび運営組織の持続可能性の観点から課題であるといえる。そこで本研究では、「Co 交通」の可能性をさらに追究し、課題を克服する意味でも、持続的な事業経営や、住民の住生活向上の効果、地域モビリティを育てる「Co 交通」の持続可能な形成に関して明らかにすることを目的に今年度は、以下を中心に進めてきた。 (1)地域住民主体の運営における独自的な経営実態 (2)地域モビリティ形成による住生活支援の実態 (3)計画から実現に向けた自治体制の実態および実現性 全国各地で展開される住民主体の交通システムの事例より、本研究の事例研究対象として、①静岡市清里地区NPO法人フロンティア清沢の取り組み、②宇都宮市13地域における地域内交通の運行、③岐阜市内19地区におけるコミュニティバスの運行、④上勝町NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーの取り組み、⑤山口市コミュニティタクシーの運行、⑥函館市陣川あさひ町会によるバスの運行、以下6件を抽出し、ヒアリング調査および実地調査により、運行開始に至るまでの経緯、運行体制および方法、どのような独自性をもって経営を行っているか等に関して検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
住民主体の交通により、利用者の声に応じた柔軟な運行や、利用促進活動、さらには交通と並行して地域づくり活動の展開も一部ではみられた。 ただし本研究の目的の一つである、通院の達成による健康状態の回復や、ひとり当たり医療費の縮小といった住生活向上の効果に関しては、具体的データがなく、運行主体側も十分に捉えていないようである。しかし利用者からは評判が高く、それ故移動を支援するに至っているという事実が明らかとなった。この点に関しては、引き続き調査を行うこととする。 一方、新たな課題も明らかとなった。それは、交通を動かしていく運転手である。住民が運転手を担う場合、中心となり担うのは70歳以上と高齢化が進んでおり、定年年齢が近づく中で、新たな担い手の創出が急がれている。また、住民ではなく、事業者に委託して運送を行う場合であっても、事業者側も運転手不足・高齢化に悩んでおり、深刻な状況にある。中には山口市のある地区のように、担当していた事業者が廃業となったため、地域のコミュニティタクシーも廃止されたという事態も発生している。今後は技術革新により自動運転の普及も期待できるが、普及に至るには未だ先であり、それまでの空白の期間をどのように運行していくか、そして仮に普及するに至ってもそれでも自動運転が担えない部分をどのように補っていくか、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今回調査を行った事例の中には、学校統廃合や、宇都宮市のようにLRT建設など、都市構造の変容もみられており、それらが地域公共交通に及ぼす影響は大きいと考えられる。そこで今後は、都市構造に準じた影響を明らかにし、実態を明らかにしていく。 また、交通サービスを展開する上では、運行主体である住民組織が完全単独ではなく、申請者が提起してきた「Co 交通」の関係にみるように、多様な主体と連携していく必要がある。行政や事業者とは当然ながら、他方、商店街はじめ商業関係者など、多様な主体と連携することで、まち育ての要素も発揮し得る。今回調査を行った岐阜市に関しては、ある地域で運行するコミュニティバスのバス停を、地域内商業施設に経営者の協力を得て設置したことで、利用者の待合環境を形成するのみならず、コミュニティ形成にも至っていることが明らかとなった。こうした多主体連携による地域モビリティ形成に向けた取り組みは、利用促進のみならず、持続可能な運行につながると期待できる。そうした事例に関しても、今後は研究を進めていく。 さらに、地域公共交通において、行政の単独あるいは事業者との協力のみで進めていくには限界がみられている中、新たに取り組まれている住民主体の取り組みを、公式に位置づけていく必要性が示唆される。これまでのように地域公共交通計画や、立地適正化計画といった行政計画に位置づけられていく点は不可避であるが、しかし地域公共交通ネットワークの提示方法によっては、幹線交通が主軸となり、住民主体の支線的な取り組みまでは計画に位置づけられないとも懸念される。そこで計画の策定に留まらず、実現に向けて実践的に取り組む事例が属する自治体へのヒアリング調査を実施することで、事例と計画との一体性を把握し、意義および実現性を明らかにする。
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