研究課題/領域番号 |
17H06507
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
内藤 寛子 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (90801978)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 権威主義体制 / 司法機関 / 中国共産党 / 人民法院 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中国共産党と人民法院の命令的指導(領導)関係を事例として、歴史的制度論の観点から、中国共産党と国家機関の領導関係を捉えなおすことである。 具体的な研究計画として、今年度は、1、法曹人材の専門職業化に関する研究と2、政法委員会の組織変化に関する計量分析を行った。今年度は、1に係るインタビュー調査を実施するとともに、2に関して日本国内外の資料を収集し、1970年代以降の政法委員会の組織変化を量的分析によってその特徴を明らかにするため、データセットを作成した。 今年度の研究成果は、第一に、インタビュー調査の結果、党中央が2000年代以降推し進めた法曹人材の専門職業化が進展していない様相を捉えることができた。人民法院内部には退役軍人や司法試験を受験していない人材が裁判官を担当しているケースが多い。それに対し、若い世代は高学歴で司法試験を受験し合格することで裁判官になっている。二つの世代の関係についてインタビュー調査を実施したところ、双方は対立関係にはなく、むしろ、若い世代は、人民法院での仕事を通じ、非専門職業集団世代の仕事ぶりを高く評価していることが分かった。なぜなら、非専門職業集団世代は、机上では学べない実践を基礎とした現地の文化になじむ紛争解決方法を会得しているからであるという。 第二に、中国共産党が実施した人民法院制度の制度化を量的分析により再検証することで、中国共産党が人民法院制度を重視し始めた決定的契機を明確にし、そしてそれがなぜ当該時期であったのか、その要因を明らかにした。 本研究が進展したことで、比較政治研究の中でも研究の蓄積があまりない権威主義体制下の政治的指導者と司法の関係が一定程度明らかになるとともに、現代中国政治研究としても中国共産党の一党体制が持続する構造の解明に繋がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、今年度、1、法曹人材の専門職業化に関する研究と2、政法委員会の組織変化に関する計量分析を実施することとしていた。1に関して、科研費を活用し、中国に何度も足を運びインタビュー調査を実施した。2については、日本国内、また国外の資料を収集したものをデータ化し、分析を実施した。 本来、1については、査読論文として投稿するまで終える予定でいたが、まだ執筆段階にある。そして、2については、計量分析のパイロットスタディはすでに終えているが、より精度の高い分析を実施するには、当初想定していたデータだけでは不十分である事がわかり、今後データセットを増強する必要がある。 このことから、当初の予定よりもやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の研究として、以下三つのことを行う。第一に、得られたインタビュー調査をもとに、法曹人材の専門職業化に関する研究をまとめ、査読論文に投稿する。第二に、政法委員会の組織変化に関する計量分析についても、2018年度前半にデータセットをまとめ、後半には、論文あるいは学会報告といった形でまとめられればと考える。第三に、対外要因に関する研究を行おうと考えているが、その前段階として、行政訴訟法の制定過程の分析を実施する。そして、その分析結果を2019年3月にアメリカで開催されるAAS(Association for Asian Studies)での報告に採択されることを目指す。
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