本研究は、家事事件手続とそれに続く執行手続のあり方を一体的に検討することを目的とするものである。当初の計画では、研究の対象を絞り込むことなく、家事事件手続と執行手続を包括的に対象とすることを考えていたが、資料を読み解くうち、とくに問題が多いのが家事事件の中でも子の引渡しを対象とする事件であるという問題意識を抱くに至り、研究期間の後半ではとりわけその問題について丁寧な検討を進めていった。 子の引渡しという問題に取り組むに際しては、①実体法の問題(引渡しを求めうる根拠は何か)、②裁判手続の問題(子の引渡しを求める者はいずれの手続を選択することができるか)、③執行手続の問題(獲得した債務名義の内容をいかにして実現するか)、という異なる領域にまたがる検討が必要となるため、自身の専門分野である手続法にこだわらず、実体法的な観点からも検討を重ねた。 最終的には、執行手続自体の実効性確保に目を向けるだけでなく、債務名義作成段階での給付内容の具体化により執行手続の円滑・迅速化をはかるという方向性を示唆するとともに、子の引渡しが親権に由来する請求であるという伝統的な理解に対して一石を投ずるための提言もおこなった。 現在、民事執行法の改正作業が進行中であり、国内の子の引渡しの強制執行について明文規定が設けられる見通しである。本研究においては、現行法の制度を前提に検討を進めたが、改正法の成立により状況が大きく変わることも予想される。今後、新制度のもとで子の引渡しの強制執行がどのように実現されていくかについても、引き続き検討していきたい。
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