本研究の目的は、半導体レーザとは動作原理が異なり超低閾値コヒーレント光源として期待されるポラリトンレーザを実現する点にある。未だ達成されていない、室温で電流注入動作するポラリトンレーザを実現するためには、励起子と光子の連成波(励起子ポラリトン)が室温でも安定して存在できるZnOを活性層に用いて微小共振器構造を作製すること、さらにはpn接合を実装することが必要である。まず、励起子ポラリトンを微小共振器モードと強結合させるために、光子および励起子の挙動を妨げない高品質なZnO微小共振器を作製した。光子の寿命を延ばすために、ZnOの共鳴波長において高い反射率と広いストップバンド幅を有する分布ブラッグ反射鏡(DBR)を、プラズマ損傷が少ない反応性ヘリコン波励起プラズマスパッタ法により作製した。結果として、反射率98%・ストップバンド幅90 nmの誘電体DBRを得た。励起子の寿命を延ばすために、貫通転位や点欠陥性の非輻射再結合中心を極力排除したZnO活性層(厚み数百nm)を、水熱合成単結晶ZnO基板の薄膜化プロセスにより作製した。結果として、ZnOのバンド端発光の室温フォトルミネッセンス寿命が130 psと長い良好な品質の活性層を形成した。また、n型ZnOとのpn接合を実装するために、p型NiOの製膜を試みた。NiOは禁制帯幅が約4 eVの半導体であり、p-NiO/n-ZnOのTYPE-II型ヘテロ界面を形成できる可能性がある。反応性ヘリコン波励起プラズマスパッタ法により製膜したNiOは光学バンドギャップエネルギーが~3.6 eV、キャリア濃度が10^20 cm^-3台であった。以上より、室温で電流注入動作するポラリトンレーザのデバイス動作に向けた要素技術および重要な知見を蓄積することができた。
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