研究課題/領域番号 |
17H06519
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金 相侖 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20801442)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 水素化物 / イオン伝導 / 二次電池 |
研究実績の概要 |
錯体水素化物は金属と水素からなる籠状の錯イオンを有する材料であり、リチウムのような陽イオンが固体内を高速で伝導することから全固体二次電池の固体電解質への適用が期待される。錯体水素化物におけるイオン伝導の最大の特徴は錯イオンの回転によりイオン伝導パス形成されることであり、これらの構造的・動的挙動とリチウム伝導の相関を明らかにすることで新規伝導特性の創出の可能性が導かれる。 29年度は、錯体水素化物のリチウムイオン伝導機構の解明と高イオン伝導性を有する水素化物固体電解質材料の創出を目指して、原子欠損導入による構造、伝導率、伝導機構の変化を調べた。以下に詳細を報告する。 ・クロソ系錯体水素化物Li2[B12H12]を対象にメカニカルボールミリングによる原子欠損導入を試みた。粉末X線回折法、誘導結合プラズマ法、水素分析法により構造変化を調べた結果、処理時間の増加によりリチウムと水素の欠損量が増加することが明らかになった。 ・分子動力学計算を用いてクロソ系錯体水素化物の原子欠損を熱力学的に評価した。実験で得られた原子欠損は数百Kの外部エネルゴーにより実現できることが示唆された。 ・インピーダンス測定により、処理前後のイオン伝導率を測定した。原子欠損型Li2[B12H12]は未処理の材料より3桁以上高いリチウムイオン伝導率を示した。また、処理前後に活性化エネルギーの変化がないことから,イオン伝導率の増加は原子欠損によるキャリア濃度の増加に起因していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度は、材料合成および解析法の構築に注力した。その結果、実験・計算の両面からの原子欠損導入の検証とそれによるイオン伝導率の向上に成功しただけでなく、原子欠損、キャリア濃度、伝導率、活性化エネルギーの相関解明に基づくイオン伝導機構の解析が可能となった。これまでに、錯体水素化物イオン伝導体における原子欠損の効果の報告例は皆無であり、上記成果により錯体水素化物イオン伝導体の研究が大いに加速化すると期待される。したがって、進捗状況は順調であると判断した。以下に進捗状況の詳細を簡潔に記す。 ・実験(メカニカルボールミリング)と計算(分子動力学計算)の両面からのアプローチにより、メカニカルボールミリング条件と原子欠損形成の相関が明らかになった。特に、リチウムと水素が同時に抜けることがそれぞれの元素が単独で抜けることより熱力学的に安定であることが見出され、この知見は様々な錯体水素化物イオン伝導体の研究に適用できると予想される 。 ・二次電池材料としての利用可能性を検証するために、原子欠損型材料を固体電解質に用いた全固体電池を作製し、電池特性を調べた。正極にTiS2、負極にLi金属、固体電解質に原子欠損型クロソ系錯体水素化物を用いた全固体電池は可逆的な充放電特性を示した。以上の結果により、原子欠損型錯体水素化物の実用的な二次電池材料としての適用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、29年度の研究から得た知見を化学修飾クラスター([CyBx-yHx](2-y)-、x = 10、12、y = 1,2)型錯体水素化物へと拡張し、結晶構造制御による超イオン伝導体の創成を目指す。さらに全固体電池への実装を行い、固体電解質としての実用性を検討する。 ・具体的には、原子欠損および錯イオンの固溶化による結晶構造制御指針を化学修飾クラスター([CyBx-yHx](2-y)-、x = 10、12、y = 1、2)型錯体水素化物へと拡張し、その高速イオン伝導相の室温安定化を目指す。評価法としては、得られた試料の構造を粉末X線・中性子回折により解析する。また電気化学インピーダンス法によりイオン伝導率を測定し、構造制御効果を確認する。 合わせて化学構造をラマン・赤外分光法、中性子準弾性散乱法、核磁気共鳴法で、熱特性を示差熱天秤ー質量分析法で評価する。 ・作製したイオン伝導体を用いて全固体電池を作成し、高速充放電特性及びサイクル安定性を評価し固体電解質材料として の実用性を検討する。試料の電位窓および電気化学的安定性をサイクリックボルタモグラム、粉末X線回折、顕微ラマンにより評価する。また、主な電極材料との界面反応性をSTEMによる構造解析および薄膜試料のX線回折・インピーダンス測定によって補完する。
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