研究実績の概要 |
当該年度に行った研究成果は大腸オルガノイドの樹立である。本研究の目的はIBD患者の小腸上皮からオルガノイドを樹立し、パネート細胞形態異常を含めた機能解析を行うことであるため、研究の核となる非常に重要な部分である。まずは比較的入手が容易な正常大腸上皮からのオルガノイド作成に着手し、現在作成中である。正常大腸上皮からオルガノイド作成が問題なくできるようになった上で、小腸上皮のオルガノイド作成に移る予定である。 小腸オルガノイドを樹立後は、日本人IBDのパネート細胞形態異常との相関が示唆されるLRRK2をknock outし、オルガノイドにおいてもパネート細胞形態異常が再現されるか確認し、オートファジー機能に異常があるかも確認する。ここまでが当該年度までの計画であったが、オルガノイド作成に時間がかかっている状態である。その後は、オルガノイドに対して細菌刺激(GN, LPS, flagellin ,MDP)やサイトカイン刺激(IFN-γ , TNF-α , IL-1b, IL-6 , IL-22 )、オートファジー改善薬(rapamycin)を加え、24時間後に観察を行い、オルガノイド内の分泌顆粒量の定量化やパネート細胞形態異常の解析を行う。刺激を加える前後での変化量や変化率を解析する予定である。さらに、オルガノイドのパネート細胞形態異常に変化を与える刺激を同定できた場合には、クローン病モデルマウスに同様の刺激を行い、in vivo でもパネート細胞に異常を与えるかを検討する予定である。オルガノイド作成が順調にいけば上記の検討も進むと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既に樹立されている大腸腺腫/大腸癌からオルガノイドを作製する手法を用いて、大腸正常上皮のオルガノイドの作成を行うこととした。大腸の検体は入手が容易である(約100/年)一方、小腸の検体はIBD外科手術時にしか得られない(約20/年)ため、大腸上皮由来のオルガノイド作製に習熟したのち小腸オルガノイドの作製に取り組むことは妥当と考えられる。当院倫理委員会の承諾を得て、当院で施行された大腸粘膜下層切除術(ESD)の手術標本からオルガノイドを樹立する過程に取り組んでいるが、腫瘍からの樹立には成功しているものの、正常上皮からの樹立に難渋している状況である。理由として①正常上皮オルガノイドは腫瘍オルガノイドよりも必要とするニッチ因子が多いこと、②腫瘍は細胞ペレットからのオルガノイド樹立が可能であるが、正常上皮はある程度構造を残した状態(=クリプト)から樹立する必要があること、である。そのうち①に関して、過去に報告されたニッチ因子としてWnt, R-spondin, EGF, Noggin, A83-01, SB202190が挙げられているが、そのうちWnt, R-spondinに関しては市販のリコンビナント製品では長期継代が難しいことが知られており、Conditioned medium作成用の細胞を購入した(L-Wnt3A (ATCC CRL 2647)及びCultrex R-spondin1 (Rspo1) Cells)が、培養条件により因子の活性が安定しない傾向にある。②に関しては、クリプト分離の際には組織片を溶解せず処理するため、コンタミネーションが起こりやすい傾向にあると考えられる。
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