本研究では、環境中を模擬した実験環境下でin vitro伝達実験を実施し、VREのバンコマイシン耐性遺伝子が伝播するポテンシャルとその宿主領域を探査することを目的としている。 平成29年度の実施項目は、下水処理プロセスにおける細菌叢の把握と耐性遺伝子の探査とVREからバンコマイシン耐性遺伝子が伝播する宿主領域の探査の2つである。下水処理プロセスにおける細菌叢の把握と耐性遺伝子の探査においては、採択決定後の11月から毎月、山形県鶴岡市のA下水処理場を対象として、サンプリングを実施している。本タスクの目的である下水処理プロセスにおける薬剤耐性菌の消長を明らかにするために、流入下水、活性汚泥、2次処理水、放流水からサンプリングを行い、腸球菌の計数とDNA抽出を実施している。これまでに、各プロセスから単離した腸球菌についてPCR法を用いた菌種同定と薬剤感受性試験を実施している。今後は、モニタリングを継続して行い、月ごとの耐性菌の検出率から季節変化による影響を明らかにする予定である。また、保存してあるDNAサンプルについては16S解析とBiomarkを用いた耐性遺伝子の定量・検出の実験を計画している。 宿主領域の探査については、現在、同一菌種である腸球菌種内での伝播実験を実施している。細菌学分野で採用されているFilter Mating法を応用し、寒天培地上と液体培地中で実施している。また、環境条件である流入下水、都市河川水、活性汚泥、および河川底泥においても同様に実施している段階である。環境中での薬剤耐性遺伝子の伝播ポテンシャルを評価し、その宿主域を探査することによって、従来にはない観点から環境衛生のリスク評価につながると考えている。来年度は伝播宿主域の探索実験を継続して実施し、VREを対象とした環境単離株と臨床分離株とのゲノム構造比較解析も行う予定である。
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