研究課題
平成29年度は、実験室の整備に重点をおきつつ、米国からのNLRP6欠損(KO)マウスの輸入が諸事情により大幅に遅れたことから当初の実験計画を修正変更して行った。In vivoのマウス骨髄移植実験を行うために、施設間での照射装置及び飼育環境の相違による腸管細菌叢の変化が急性移植片対宿主病(GVHD)の発症に影響することが知られているために、当研究室における最適実験条件を設定しマウス骨髄移植モデルシステムを確立することを最初に行った。wild type(WT)マウスを利用した移植実験において、本研究ではB6由来のNLRPKOマウスをドナーとして用いなければならないため、主要組織適合抗原(MHC)不一致(B6→BALB/c)、MHC不一致ハプロタイプ一致(B6→B6D2F1)及びヒト臨床により近いMHC一致・マイナー抗原不一致(B6→C3H.sw)の3種の異なるマウスBMTモデルを用いて移植実験を行った結果、安定かつ十分な移植片対宿主病を誘導することができた。今後、このモデルを用いてNLRP6 KO由来のドナーT細胞を用いた同種移植実験を行い、生存率やGVHD重症度、臓器別の病理学的な特徴やT細胞増殖の程度などを種々の移植後解析を検討する予定である。in vitro実験においては、今後NLRP6 T細胞における表面マーカーや機能評価を行う予定であることから、その比較対象となるB6WTマウス由来の脾臓T細胞表面マーカー解析をプレリミナリーに行い、データを得ることができた。今後同週例のKOマウスと比較検討しつつ、サイトカイン産生能などの機能解析も行う予定である。一方、本研究に関連したGVHDの病態生理に関する国際研究については着実な成果をあげることができ、昨年1年間で筆頭著者3片を含む5編の英文論文をJCI Insight, Blood Advances, Biol Blood Marrow Transplntなどの一流国際学術誌に発表した。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度前半にNLRP6 欠損マウスを米国ミシガン大学より輸入予定であったが、手続きが遅延したために年度末での輸入となった。現在マウスの検疫・クリーニング・繁殖中であるが、当初予定ではNLRP6 KO マウスの脾臓細胞由来T細胞を用いたin vitro実験を進める予定であったため、研究内容を一部変更して実施した。その一方で、当研究施設においては、安定した移植片対宿主病を誘導できるマウス骨髄移植モデルの作成を行いえたことで、マウスが利用可能になれば、研究が飛躍的に進むものと思われる。尚、本研究に関連したGVHDの新規メカニズムの解明と治療法の開発における国際共同研究では、昨年1年間で筆頭著者3片を含む5編の英文論文をJCI Insight, Blood Advances, Biol Blood Marrow Transplntなどの一流国際学術誌に発表したことより、上記と評価した。
平成30年度はNLRP6のT細胞における機能をKOマウスを用い解析する。主なものとして、T 細胞における分化及び活性化への影響を検討するために、脾臓由来T細胞におけるナイーブ、メモリー、エフェクター、制御性T細胞(Treg)などのT細胞亜分画及び活性化マーカーの発現をフローサイトメトリーで解析する。次に、抗CD3・CD28抗体の共刺激によるTCRの非特異的刺激並びに混合リンパ球培養反応(MLR)によるアロ刺激の二種の異なる刺激方法を用い、反応の相違をCarboxyfluorescein succinimidyl ester (CFSE)にて確認し、炎症性及び抗炎症性サイトカイン(IFN-γなど)をenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)を用いて測定する。急性GVHDの発症にはナイーブT細胞からエフェクターT 細胞への分化(Th1、Th2、Th17など)が必須であることから、分化能に与える影響も検討する。分子免疫学的メカニズムの解明には、TCR刺激による変化をマイクロアレイで解析し遺伝子発現の変化を検討しする。次にマウス骨髄移植モデルを用いて、生存率並びに急性GVHD重症度を経時的に観察する。また、ドナーT 細胞の増殖と機能変化(活性化マーカー及びサイトカイン産生能)、標的臓器における病理組織学的GVHD重症度の検討、血中サイトカイン測定も行う。ドナーT細胞の機能解析は、標的臓器に浸潤したT細胞も解析対象とする。これら実験は将来的な急性GVHD予防・治療法の開発を行うトランスレーショナルリサーチを遂行する上で極めて重要である。尚、生存率及び急性GVHD重症度において有意差が認められない場合には、輸注T細胞数や照射線量の調整、BMTモデルの変更(B6→B10.BR)、非照射モデル(B6→B6D2F1)を用い、実験条件の変更を試みたい。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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