研究課題/領域番号 |
17H06544
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
平井 孝志 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (60800597)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 経営学 |
研究実績の概要 |
長年にわたって低い収益性に喘ぐ日本企業の収益性向上に向けた実務的示唆を抽出するために本研究を実施している。特に、これまで日本経済を牽引してきた大規模製造業に焦点を当てている。 企業は、成長のために余剰資源の投下が必要であり、資源投入とそこからの成果の刈取りといった不均衡な発展のダイナミズムを有している。また、製造業においてはR&D資源の投下が一つの重要な要素となる。本研究におけるダイナミック・ケイパビリティ論のレビューを通じて、R&Dは他社と差異化する固有の資源となるだけではなく、R&D能力が社外に存在する知見や機会を探知、捕捉するための重要な資源・能力でもあることがより明確となった。 平成29年度には、ダイナミック・ケイパビリティ論の視座からR&D資源投入→経営成果の企業事例をレビューし、論理モデルを整理すると同時に、日本の上場製造業の長期間にわたる財務データベース(売上高、R&D支出、営業利益率)を構築した。結果、189社、27年間にわたるパネルデータを完成し、分析に着手した。 定量分析からは、先行研究においては明確に検証されていたとは言い難いR&D投資と収益性の関係が明らかとなった。すなわち、長期間においてR&D投資を継続的に強化していくことが収益性の向上につながる、ということである。また、企業の不均衡発展の周期が4-5年であることが本研究においても検証された。 学会発表等は翌年度に持ち越しとはなっているものの、昨年度においては各種研究会等にて本研究の成果の一部を適宜発表を行ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の特徴は、長い時間軸で、詳細な定量分析を行うことに特色がある。また、昨今、経営戦略論において着目されている感知・捕捉・再配置という動態的な企業成長論であるダイナミック・ケイパビリティを、R&D側面ではあるものの、定量的に検証する一つの試みであるということにも特色がある。 その観点から、ダイナミック・ケイパビリティにおけるR&D側面の先行研究レビューはある程度進めることができた。来年度も引き続き、定量分析の進展に合わせて先行研究の捕捉レビューは継続していく所存である。 また、定量分析のためのデータベースは、補助員の採用等による労力の増強により、無事完成することができた。順次、分析作業を進め、おおよそ当初想定していた分析は実施することができた。また、その結果の多くは、当初の仮説を裏付けるものであった。 一点、十分に実施できなかった項目としては、国際学会等に参加し、最新の研究動向にフェーストゥーフェースで触れ、議論し、検討を深めることであったが、それは実施に至らなかった。ただし、国内学会あるいは各種研究会への出席等である程度補完できていると考えられる。 よっておおむね順調に進展していると自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、さらに可能な定量分析を進めると共に、データベースから抽出可能な経営成果(この場合利益率)を向上させた企業や悪化させた企業を選定し、その経営サイクルの質・量の分析を実施する。 特に、日本企業の経営サイクルの重要な要素を占める中期経営計画の策定・実行という実務に着目し、研究の当初想定以上に、この実務に着目した分析を進めていく。ここからの示唆は、実際に日本企業の経営の効率化・効果向上を考えた際に大きな意味があることが想定される。 よって平成30年度は、引き続き先行研究のレビューも必要に応じて行いつつ、日本企業の中期経営計画のデータ収集を実施し、分析を行う。その中で、利益率を向上させた企業・低下させた企業に着目し、ダイナミック・ケイパビリティの観点からその違いを明確化していくことを試みる。また、その成果を学会発表、論文の形で発表していく。
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