本研究は、長期的な低収益性に陥っている日本企業、特に製造業の収益性改善のための示唆を得るために実施された。高度な科学技術を基盤とする日本の電機、重工業、素材・化学といった製造業では、能力構築型の競争優位という特徴を有し、それが隔離メカニズムとして働き、優れた経営成果を上げることが期待されるが、長期的な低収益性はそれがうまく機能していないことを示している。 そこで本研究ではダイナミック・ケイパビリティ理論を援用し、R&Dケイパビリティに基づくダイナミックな収益成長モデルを構築した上で、長い時間軸におけるR&D投資パターンが経営成果(収益性)に与える影響について、日本の大規模製造業189社、27年間(1989-2015年度)のR&D投資ならびに収益性データを用いて定量分析を試みた。研究からは、以下の事柄が明らかとなった。 1.、R&Dインテンシティ(R&D費用を売上高で除したもの)を増大させ続けた企業ほど、営業利益率の増加効果が大きかった。長い時間軸でみると、R&Dへの投資が利益率の向上に寄与することが明らかとなった。2.またその影響度は、研究開発主導型の業界ほど大きかった。3.R&Dインテンシティ・営業利益率・売上高の変動周期は、それぞれ、4.1年、4.0年、5.1年であり、おおよそ資源構築に要する程度の時間であった。4. R&Dインテンシティの増減のパターンは、おおよそ2年後の営業利益率の増減のパターンを生み出すというタイムラグが観測され、不均衡発展のマネジメントの重要性が示唆された。 本研究においては、近年、重要性が喧伝されるオープン・イノベーションの時代にあっても、外部知識の活用にむけて、自らの感知・捕捉・変革する能力であるダイナミック・ケイパビリティ構築の必要性をR&D側面から実証することができた。これらの発見事実は、国内の複数学会で発表され、予稿論文集に収録された。
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