今年度は,本研究の基盤である三重らせんナノワイヤ・ナノシートのモデル化合物となる単核錯体について,大きな進展が得られた。 ピボット部位にテトラフェニルメタン骨格を持つ三脚型配位子が,鉄(II)と定量的にらせん錯体を形成することを明らかにした。らせん錯体の構造を単結晶X線構造解析により明らかにした。ピボットの4つ目の置換基であるフェニル基は分子の外側を向いており,らせんと反対側への構造拡張が可能であることがわかった。これは申請者の設計通り,三又の三重鎖モノマーが合成可能であることを示唆している。 また,このらせん単核錯体を各種ジアミンと反応させたところ,ジアミンの種類によってビシクロ型二量体と正四面体型四量体を選択的に作り分けられることがわかった。ビシクロ型二量体と正四面体型四量体はプロトンNMRにおいてほぼ同一のスペクトルを示したが,ESI-TOF-MSでそれぞれ二量体,四量体のみが選択的に得られたことが示された。またDOSY測定においても,二つの生成物は異なる拡散係数を示したことから,ビシクロ型構造,正四面体型構造の形成が示唆された。今回得られたビシクロ型二量体は本研究が目指すナノワイヤ・ナノシートの基本ユニットそのものであり,今後の研究遂行に有用な指針を与える成果と言える。 ナノワイヤ・ナノシートの合成に向け,構成要素となるモノマーの合成にも取り掛かった。最終目的物の2ステップ手前まで問題なく反応が進行することを確認した。
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